村上龍著『五分後の世界』を要約する
一.兵士達
ジョギングをしていたはずの小田桐は知らぬ間に行進に紛れて歩いているのに気付く。そのまま進むとトンネルの出口のようなものが見え、そこでは兵士による審査が行われていた。小田桐も黙ってその列に加わるが、周りの人々からは日本のものと思われる不思議な地名が行き交っている。小田桐は兵士から書類の提出を求められ運転免許証と一万円札を提示する。だが、兵士から運転免許証に記載された住所は現存しないと言われ怪しまれる。そして、なぜか小田桐の時計は五分遅れていた。
二.雑居房
小田桐はとある雑居房に収監される。その部屋には、日本人とどこか似つかない混血人だらけだった。白人や黒人もいる。その内の一人が頭を打ち抜かれて殺されているのを見る。小田桐は目の前で打ち抜かれた人間を見るのは初めてで衝撃を受けた。しかし、その後小田桐はより衝撃的な事実を知ることとなる。ここが日本であることは間違いなく、しかも日本人はアンダーグラウンドと言う地下組織で生き延びて二十六万人しかいないというのだ。
三.矯正施設
共にしていた混血人達は、片言の日本語を話しながら"準国民"と言うものになるための準国民試験を受けにきているのであった。小田桐達は雑居房からライン工場へ連れていかれる。先に仕事をしていた女が小田桐の流ちょうな日本語を聞き、小田桐のことを国民兵士の監視員だと思いこむ。そして、女に必要以上にしゃべりかけられ工場の監視官に疑われてしまう。小田桐と女は長い闇へと続くトロッコに乗せられて地下の奥深くまで連れていかれることとなる。
四.戦闘
小田桐達はトンネル出口付近の修復工事に駆り出されていた。しかし、その現場を"国連軍"と言うものに襲撃される。小田桐はその戦闘で死にそうになりながらも、自分が死というものから無意識的に戦うことを選び、生き抜く。小田桐はこの戦闘を通してこの世界を受け入れるのであった。何とか戦闘を切り抜けた小田桐であったが、兵士から処刑すると伝えられる。処刑が執行される寸前に兵士から「この世界をどう思うか?」と質問される。そこで小田桐はこの世界を「気に入った」と言い放つ。その結果、処刑は中止されて何処かに連れていかれる。
五.アンダーグランド
小田桐は純粋な日本人によって形成される地下世界、アンダーグラウンドにいた。そこで小田桐の認識とは異なる進化を遂げた日本の歴史を知ることになる。一九四五年に沖縄上陸戦で降伏しなかった日本の姿があった。その後日本は米国など戦勝国の四国によって分割統治されることとなる。だが、日本人達は地下トンネルを基点にゲリラ戦を展開し生き抜いてきた。そして、日本人の文化や独自の価値観はアンダーグラウンドと言う場所でその後も生き続けることとなったのだ。
小田桐はアンダーグラウンドを指揮する四十八人委員会の一人であるヤマグチと話をすることになる。そこで小田桐は"生き抜く"ことこそゲリラの本質であると説かれる。小田桐は無意識的にこの世界でゲリラのような行動をとってきたのであった。小田桐が受け入れられたこの世界の日本では、まさしく生き抜くことが価値観となっていたのだった。その後、小田桐はマツザワ少尉という女性将校の自宅でやっかいになる。
六.オールドトウキョウ
小田桐はこの世界の音楽演奏家であるワカマツの演奏を聴くために会場に足を運ぶ。会場には海外のVIPも含む大勢の人々が来場しているのだが、十分な警備がされておらず混沌を極めていた。準国民兵士である警備責任者は国民兵士に対して必死に自己弁護をするが、国民兵士の将校は"自分の意志"で言えと一喝する。さらには国連軍の度を超えた数量の警備部隊も到着する。
七.暴動
会場は、ラッシュ時間の電車のように身動きできないほどの人で埋まっていた。そんな中、国連軍の警備部隊やその他大勢の人々の中から暴動が発生する。沈静化しきれずに会場は大混乱となる。そんな中、ワカマツは自分の意志で演奏を継続し続ける。
八.非国民村
小田桐は南富士に向かうために日野村という"非国民村"を経由することになる。非国民村とは、日本人のプライドを捨て去り諸外国に媚びを売りながら生きている人々が暮らす村のことである。日野村はひどい差別状態にあり、そこで日本の文化を守り続けると主張する人々の姿を小田桐は馬鹿馬鹿しく感じる。小田桐達が日野村に到着し食事をしていると、突如襲撃を受ける。そこで共にしていた部隊の仲間が負傷する。仲間を肩に背負い武器を握る小田桐。小田桐は自分の意志で生き延びることを決め、この世界を受け入れる。そして、小田桐は自分の時計を五分進めるのであった。