●タイトル ひまわりの気持ち


暑い日ざしの中、小さな女の子は毎日のように水をくれにきた。そして、夏休みの宿題であろう絵日記に、空に向かって誇らしげにひまわりの花を咲かせる母親の姿をクレヨンで描いている。ぼくはそんな母親を自慢に思っていた。(信頼)
一ヵ月後、ついにぼくも母親の元を離れて旅立つときがきた。仲間と共に風に乗り、一気に空に舞う。だが、ぼくだけ仲間とはぐれてしまい小高い丘の上にちょこんと着地した。(逆幸運)
眩しい太陽が閑々とあたる風通しの良い場所だ。ぼくたちひまわりには絶好の場所といえる。仲間とはぐれてしまったものの、そんな良い場所を得られたことで気を取り直したぼくは、光を浴びて元気いっぱいにひまわりの花をさかせてやろうと息巻いていた。(生命)(意思)
と、その矢先のことでであった。髭を蓄え、スケッチブックを脇に抱え、手に鉛筆を握る男にぼくは踏み潰されてしまったのだ。(逆至誠)
しかし、ぼくに憎しみの気持ちなどなかった。
意識を失いつつ天に昇る途中、男のスケッチブックに描かれる見事なひまわりの花が見えたから。(創造)



●タイトル 民主主義


かつて国王は、皆に反対されながらも増税を断行し、適切な社会インフラを整備した。(勇気)その英断によってこの国は繁栄を帰し、国王は絶大なる支持を得ていた。(信頼)
とはいえ、世界的な流れからこの国でも民主化の流れが強くなり、国王は悩んだ末、太古より王族が執行してきた政治を民衆の手にゆだねることにした。(解放)
しかし、民衆による政治は愚の骨頂を極めた。民衆の要望で減税が進められる中、教育拡充だの社会保障だのと必要予算は膨らむばかりである。(創造)また、国王が解放した政治利権に群がる議員達は、一つでも多くの利権を獲得しようと争うばかりで政治が進まない。(逆至誠)その結果、この国は衰退の道をたどることとなる。(逆治癒)
かつての国王は言った。
「民主主義とは最も非効率な方法じゃな」



●タイトル 美鈴との約束


「あなたの絵を見ていると、私元気になれるような気がするわ。きっと、いつかあなたの個展にたくさんの人が絵を見にくるの、あたしはそんな様子を見て自分の目は間違いなかったって確信する。絶対、そんな絵描きさんにならなきゃ承知しないわよ」
既に一年以上の入院生活を強いられている美鈴は声を弾ませる。そんな様子を見ているだけで、嬉しい気持ちでいっぱいになった。(治癒)


ぼくは、かつての光景を思い出して懐かしさを感じながらも顔をゆがめる。元気そうに見えた美鈴もその一週間後、息を引き取ったのだ。美鈴は苦しんでいたに違いない、後で看護師さんから聞いた話では夜間の見回りで美鈴の病室を通る度に、低く唸るような声を聞いたそうだ。心配に感じた看護師さんが声をかけても、美鈴は「大丈夫です」と言い張ったようだ。美鈴はそんな状態にも関わらず、毎日のようにぼくの絵を見て声を弾ませてくれた。もし、ぼくの絵で美鈴を少しでも元気付けられていたとしたら、ぼくは絵を描き続けなければいけない。それが美鈴との約束だからだ。(創造)(勇気)


ぼくは一心不乱に絵を描き続けた。そんなある日、ぼくの絵に興味があるという画商から連絡が入った。
「いやあ、先生の絵はすばらしい。必ず多くの人の心を掴むと思いますよ」
「先生……だなんて、そんなたいそうな絵描きではありません」
ぼくは照れながらも、自分の理解者に出会えたことを単純に喜んでいた。
「ぜひ、先生の絵を引き取らせてください。ただ、新鋭の絵描きさんと言うことで委託販売にはなってしまうのですが」
そう言って画商は細かな契約方法を説明し、ぼくは納得した上で契約書に署名捺印した。(善良)
その数日後、契約書に従い委託手数料の五十万円をなけなしの貯金から振り込んだ。これで自分の絵が流通し、多くの人に見てもらえるだろう。そして、絵の知名度があがれば大きな個展を開きたくさんの人を招待することができるかもしれない。ぼくはそんな光景を思い浮かべながら思った、これで美鈴との約束を果たすことができる。


しかし、状況は一変した。委託手数料を支払った画商と一切連絡が取れなくなったのだ。ぼくは騙されてしまった。功を急ぎすぎたばかりに大きな失敗を犯した。しかも、ぼくの描いた絵の多くは画商に手渡してしまっている。また一からやり直さなければならない。(逆庇護)
しかし、ぼくの心の中に美鈴との約束が刻み込まれている限り、ぼくはあきらめることはしない。いつかはきっと約束を果たせるだろう。ぼくはあきらめない。


その一年後、ぼくは個展会場の入り口で何度も挨拶を繰り返していた。既に、開場してから百人以上のお客様が見えている。ぼくの絵を見ながら感嘆の表情を浮かべる人が見える。ようやくこの時を迎えることができた。
「美鈴、ぼくはやったよ! 君との約束を果たすことができたよ」
ぼくの心の中に生き続ける美鈴がぼくと共に声を弾ませているのを感じた。(結合)




●タイトル 幸せな結婚


むかしむかし、ある村にとても聡明な若者がいた。若者は腕っぷしも勇ましく、村を襲う盗賊なんぞ一人で蹴散らしてしまうのだった。そんな若者は村中の者から慕われ、村人からの贈り物だけで食うにも困らないほどだった。(知恵)(秩序)
だが、あるとき若者は急な病に侵され寝込んでしまった。(逆生命)今まで村の平和を一人で守ってきた若者を村中の者が心配する。(調和)とりわけ毎日足しげく通い看病してくれる女の子が若者を助けた。若者はその女の子に惚れ込み、ついには結婚したのだった。それから二人は幸せな日々をすごしたとさ、めでたしめでたし。(結合)(幸運)
ちなみに、若者の病が女の子の仕込んだ毒まんじゅうであったことは永遠の秘密にしておこう。



●タイトル 戦争ゲーム


おれは、ネット対戦型の戦争ゲームに夢中になっていた。敵軍の戦車を木っ端微塵に破壊する爽快感、逃げ惑う敵兵をじわりじわりと追いかけては殺す満足感、いずれもおれの感情を高ぶらせる。(逆秩序)(逆創造)
そんなゲームの中で、おれは一人の男と仲良くなった。完璧に戦術を使いこなしながら、(公式)一人の敵兵も生きて逃さない冷徹な男であった。おれ達二人の前に敵はなく連戦連勝を繰り返し、ゲーム内を暴れまわっていた。(幸運)(逆節度)
そんなある日、おれはふと思った疑問を男に尋ねた。
「お前いつログインしても必ず居るけど、仕事はなにしてるんだ?」
「人を救い導く仕事さ」
「警官とか消防士か? それにしては自由にゲームしてるな」
「いや、おれは教会の牧師だ。自由業みたいなものだから昼間からゲームしたり、戦術研究したりしてるのさ」(善良)




※コメント


なんか、変に掌編のように落ちをつけようと意識しすぎているせいで、
パターン化してきた気がする……


明日から、掌編を意識せず本来の目的どおり短編小説のプロットを作ってみよう!