宝くじを拾った少年の使い方



キーンコーンカーンコーン――。
サトシは、元気よく校門を飛び出す! ……はずが、今日は元気が無い。
しょんぼり歩き、近くの公園でベンチに腰かける。
「はぁー、ゲームが出来ないんじゃ生きる意味無いよ」



―サトシは十四歳。中学一年生である。
品のよさそうな坊ちゃんカットに淵のお洒落な眼鏡をかけている。
今時の中学生らしくサトシは大のゲーム好きだ。
サトシが昨日から元気の出ない理由も、しばらくゲームが出来ないからである。
最近、勉強をさぼってゲームをやりすぎていたせいで母親から怒られたのだ。
そして、ゲーム禁止令の公布に伴いゲーム機器が一切取り上げられてしまった。



「くそ、今月お小遣いも使い切っちゃったから新しいゲームも買えないしなぁ」
そんな事を呟いていると、ふと見ると隣のベンチに『宝くじ』と大きく書かれた雑誌があるのに気付く。
「なんだろ!?」
サトシは、何気なくその雑誌を見てみた。
雑誌を開くと、チケットのような紙がひらりと舞い落ちた。



「――へい!タクシー!」
サトシはドラマの主人公的な言い方を気取って、走っていたタクシーを止めた。
「ぼっちゃん、一人でどこ行くんだい」
「とりあえず走って!」
「……へい」
運転手は、余りに若いお客に対して少し不安げな様子だ。
(漫画やゲームじゃあるまいし、まさか宝くじ一億円があたってるなんて!)
案の定、サトシが拾った雑誌には一億円の当たり券が挟まれていた。
さらには、ご丁寧に一億円の当選番号に何重にも赤丸がしてあったので、すぐに当選していることも分かった。
(むふふ。このお金でゲーム好きなだけ買ってやる! ――そうだ、良い事思いついた!)
勉強は出来ないのに、こんなときは悪賢いサトシである。
親に内緒で友達とゲームやり放題の隠れ家を作ろうというのだ。
「で、どこ行きやしょう?」
「そんじゃ手始めに……」
「近所のヤ○ダ電器に向かってよ」



「――このフロアにあるゲームソフト全部頂戴!」
「は?」
唐突な若いお客様の一言にきょとんとする店員。
「あと、この店で一番でかい液晶テレビもつけてね」
初めは冗談だと思って対応していた店員も、サトシが何度もしつこく言うので、店長を呼んだ。
「ぼくぅ、ゲーム大好きなのは分かるけど、さすがに全部は無理だよ」
店長はなだめる様に言った。
「なんで?」
「お金一杯必要なの。分かるかな?」
そんな店長の言葉に対し、一息ついてからサトシは言い放った。
「一億円の宝くじ当たったの。ほら。これで一千万円支払うから文句ないでしょ?」
「とりあえず、現金一括で支払うから三丁目の立花まで持ってきてよ。宜しく!」
「なっ!? ……立花様ですね、かしこまりました」
急にしおらしくお辞儀する店長。
「次行くぞ!」



「――、九千万円で適当にマンション頂戴!」
ここは駅前のS不動産。
サトシは、先ほどの電気店と同様に百円アイスでも買うようなのりで言った。
「……は!? ぼくぅ、お父さん、お母さんは?」
「子供扱いするなっ!」
「お金ならちゃんとある。ほら。この一億円の宝くじで支払うから安心してよ」
「ただ、さっき一千万円使っちゃったから九千万円で探しといてね!」
「っな……」
とかく突然のことに困惑する不動産屋の店主。
「とにかく! 三丁目の立花だから、物件図持ってきてよ。現金一括で払うから宜しくね!」
「!? 三丁目の立花様ですね……かしこまりました」
店長はサトシに深々とお礼をした。
(皆現金なもんだなぁ)



「これで好き放題ゲームやれるぜぇ」
「――ぼっちゃん、タクシー代の方も大丈夫なんでしょうね」
訳の分からぬ子供の行動に振り回され言いなりになっていた運転手だったが
タクシー代の精算を考えると不安になってきた。
「ほら!この宝くじが何よりの証拠でしょ」
「この雑誌にだって当選番号がしっかり書いてあるし――」
サトシは運転手に見せ付けるように雑誌を見せた。
「……!?」
雑誌を見ると、運転手はふいにタクシーを停車させた。
「ちょっと見せてごらん!」
サトシから奪い取るように雑誌を見た。
「あんだよー!」
「……これ、去年の雑誌。今年の当選番号じゃないぞ!」
「え!?」
よくよく見ると、雑誌は去年の日付である。
でも、宝くじは今年のもの。
「うわーーーー」
「おれのゲームやり放題がぁ! おれの隠れ家計画がぁ!!」
サトシは、急激にしょぼんとする。
「それどころじゃないよ、御代どうすんの」
タクシー運転手の言い分はもっともである。
それに対し、ツンケンした表情でサトシは言う。
「とりあえず、うちに向かってよ」



――タクシーが三丁目の並木林に入る。
三丁目には気持ちのよい並木林が道路に脇に生え並ぶ。
そこを元気の無いサトシを乗せたタクシーが通り過ぎる。
サトシの家の玄関前に着くと、電器屋と不動産屋の店長が来ていた。
「おたくのぼっちゃんが一千万円で全てのゲームと液晶テレビを購入してくださると」
「うちは、九千万円でマンションを買ってくださると」
「なんなんですか!? あなたたちは!」
母親が困惑した表情で怒鳴っている。当たり前だ。
そこにサトシが現れた。
「サトシ! どういうことなの説明しなさい!」
「実はね……、一億円の宝くじが当たったと思って、それでどうしてもゲームやりたくて、ついつい買っちゃったの」
「いつも無駄使いはだめだといってるでしょ! それに、勉強もしないで!」
「……ごめんなさい、もう無駄使いしないから、ゲームもやりすぎないで勉強するから……」
サトシは、ひっくひっくと泣き出してしまった。
サトシの母親は、なんだかんだ一人子であるサトシのことが可愛くて仕方が無い。
故にサトシの泣きにとても弱いのである。
「――仕方無いわね。来月のお小遣い抜きよ」
サトシに笑顔を見せてから振り返った。
「三丁目、立花財閥宛てにご請求して下さいな」



――三丁目、立花財閥の屋敷にある並木林が気持ちよい風を運んでいる。