ピチピチ女子高生・武男あらわる(上)


プロローグ


「なんじゃこりゃーーーーー!!」
改めて自分の容姿に驚く武男。
まじまじと自分の体を確認してみる。

むにゅ。
胸部のふっくらしたものをセーラー服の上から触ると、柔らかい感触がした。
中年太りで肉が気になったお腹も、キュッと引き締まって括れていた。
鏡越しに見える自分のものと思われる顔も全くの別人だ。
透き通るような白い肌。コロッとした可愛らしい目。ぷっくりとした唇。
そして、セーラー服を着ている自分。誰が見ても16歳程の女子高生だ。
「おれピチピチの女子高生になってやがる……」
鏡の前には、可愛らしい女子高生が唖然と立ち尽くしていた。


***


――佐々木武男、33歳。1年前に同僚と共に3人でシステム開発会社を立ち上げ独立した。
いわゆるIT業界でいずれはミク○ィーのようなサービスを立ち上げて会社を大きくし、
果ては上場させてやると息巻く起業家だ。
妻と娘は居るが、仕事が忙しくて最近は家に帰っても寝顔しか見ていない。
武男の不安定な収入を支えるために妻はパートタイムの仕事をしている。
朝も早々に娘を連れて妻は家を出てしまうため家族の会話は無い。
妻はそのまま娘を幼稚園に預けて仕事に向かうのだ。


武男の夜は、仕事が溜まってひたすら会社で仕事を片付けているか、
取引先との付き合いで酒を飲んでいるかのどちらかだ。
今夜も大事な取引先の社長と酒を飲んでいた。
いつも仕事を貰っている関係があるので、勧められる酒を断ることもできずに
ついつい飲みすぎてしまった。
そもそも、あまり酒の強くない武男にはかなりのダメージだ。


そんな状態で意識が朦朧(もうろう)とする中、なんとか自宅近くの駅までたどり着いた。
駅を出て千鳥足で歩くもふらついて真っ直ぐ歩くことが出来ない。
気持ち悪さも相まって、武男は歩くことを断念し一休みすることにした。
駅前でも既に終バスを過ぎて人通りの少ないバス乗り場にあるベンチに腰掛けて一息つく。
連日の激務からの疲れと、明日は土曜日と言う安心感でウトウトとしてしまった。


「――そこに若いの!」
自分を呼びかける声にうっすらと目をあける。
「若いもん、しっかりとせんか」
「これでも飲んで元気になるのじゃ」
小汚い格好をした老人が、透明なガラスコップに入った水らしきものを手渡してきた。
「っう、あ、ありがとうございます」
気持ち悪さから喉がヒリヒリしていた武男は、老人の施しをありがたく喉に流し込んだ。
一瞬、体が熱くなるような感じがしたのだが、すぐに収まった。
「……これで気づくこともあるじゃろう」
「?」
朦朧(もうろう)とした意識の中、立ち去る老人の言葉に不思議な余韻が残った。
武男はベンチに腰掛けながらそのまま目を閉じて、さらなる眠りについた。


――どれ位時間がたったのだろう。
「なぁ、君」
武男は、体が軽く揺すられるのを感じて、眠い目を渋々開けた。
「起きたまえ、こんなところで寝てたら風邪ひくぞ」
目の前には、高そうなパリッとしたスーツを着た20代後半の男が立っていた。
武男は、なぜ俺よりも若い男に"君"呼ばわりされなければいけないんだと腹を立てつつ
手を左右に振って拒否の意思表示をした。
とにかく眠い、寝させてくれ。
その一心でまた眠りにつこうとすると、その男は武男の脇に手をまわして無理やり起き上がらせた。
「さぁ、起きて暖かい所に行こう」
武男はその男に寄り添うような形になって立ち上がるはめになった。
「……大人として、放って置く訳にはいかないからな」
そんな正義感ある言葉とは対照的に、その男は武男を見てニヤニヤしながら言った。


武男は酒が抜けきらず体に力が入らない。
その男に肩を抱かれつつ駅前のカラオケボックスまで連れてこられた。
部屋に入って、男と斜め向かい合う形で席に着いた。
「君は家出中かなんかか?」
「お父さん、お母さん心配してるだろ」
「しかもお酒なんか飲んじゃだめだろ」
その男は脚を組んで、子供を叱る様な口調で言った。
なんでお前みたいな若造にそんなこと言われなきゃいけないんだ。
しかも家出とかなんのことだよ。
武男は、ぼんやりした頭でブツブツと声にならない苦情を述べていた。
その男はそんな武男の事など気にせずに、まったく近頃の若者はとか何とか言いながら、武男の体をニヤニヤ見てくる。
こいつそう言う趣味か?気持ち悪い。
武男はこの男の視線から逃れようと目を反らした。
この部屋の奥側の壁は一面ガラスになっていた。
「ん?」
目の前のガラスに映っている光景が、武男には理解できなかった。
男に言い寄られてソファーに座っているのが……
透き通るような白い肌、コロッとした可愛らしい目。ぷっくりとした唇。
さらには、ラインが入った紺のスカートに褐色のセーラー服を着ている。
そこには、なんとも可愛らしい女子高生がちょこんと座っているのだ。

当然、武男は自分の後ろを振り返ったり、左右を見回してガラスに映る可愛らしい女子高生の姿を探した。
でも、ガラスに映ったその可愛らしい女子高生は自分の動きと連動して動く。
「……どういうことだ」
「このガラスに映るのは明らかに女子高生。ガラスの前に居るのはおれであって、おれが女子高生に見えるが……」
あまりの出来事に、武男は放心してしまった。


「なにをキョロキョロしてるんだい?」
「ぼくともっとお話しようじゃないか」
そういうと、男は武男の隣に、しかも体を密着するように座ってきた。
「ぼくはね、IT系の会社をやっててるんだ。」
「君だって●●と言う携帯サイトを知ってるだろ。あれはうちのサービスなんだよ」
「このサービスが順調で、上場も決っている」
「……」
「とにかくお金は一杯あるんだよ」
その男は、武男の脚に手を置きながら、自慢げな顔を近づけてきた。
「六本木とかお台場にいくつかぼくのマンションがあるんだ」
「しばらく君を……飼ってあげようか?」
俯いた武男の顔を覗き込むように、ニヤニヤした口調で言った。
しかも、あろうことか武男にキスまでしようと唇を近づけて来たのだ。
色々な突然のできごとに放心していた武男であったが、はっと気づく。
「ふざけるんじゃない!なんでお前みたいなIT成金野郎に飼われなきゃいけないんだ!」
男の気持ち悪いニヤニヤ顔を引っ叩いた。
「っこ、このガキ、粋がってんじゃねーぞ!」
「お前みたいな社会のくずを少しでも助けてやろうと思って言ってやってんじゃねーか。金だって出してやるよ!」
男は、大きな声を張り上げて武男に面前に迫ってきた。
「こんな遅い時間まで女子高生がなにやってんだよ」
「どうせ、大人の金を期待して駅で待ってたんだろ。金なら後でやるよ」
そういって、力づくで覆いかぶさってきた。
むにゅ。
腹部からもぞもぞと男の手が入ってきて、自分の胸に触れる感触がした。
なんだこれ?自分の胸の上になんかある!
不思議な感覚と、それをこの男に触られた気味悪さが相まって、
「うわー!!」
武男は男を下から蹴り飛ばした。ちょうど蹴りが股間部にあたったようで、男は悶えている。
武男は、そのままカラオケ店を飛び出した。



(下)に続く