アナと雪の女王 続編[86] | アナと雪の女王の続編―勝手に書いてみた―

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『…何をしてるんですか?』

ハンスは、背中の傷の痛みに顔をしかめながら、そう尋ねました。



ハンスの目が覚めるまで、出航を見送っていた船は、出航に向けて、慌ただしく動いていました。

そんななか、いつまでも寝てはいられないと、ハンスも早速荷物運びに加わっていました。
それに、自分の怪我のせいで、出航が延びたことをハンスは申し訳なく思っていたのです。

しかし、背中の傷はまだ、動くたびに鋭い痛みが走りました。
荷物を運ぶハンスの眉間には、深いしわが刻まれています。

そんななか、ハンスの前に現れたアイリーンの出で立ちに、ハンスの眉間のしわがますます濃くなりました。

『…いったい、どういうつもりですか?』

「似合うだろう?」

そう言って、アイリーンはニヤリと笑いました。
ハンスの問いは、宙に投げられたようです。

「どうだい?
エレガントかつ、セクシーだろ?」


顔をしかめるハンスの前に立つアイリーンは、赤茶けた長い髪を美しく結い上げ、深いボルドーのドレスに身を包んでいました。

その姿からは、普段屈強な男たちを大声で叱りつけていることなど、想像がつかないほどです。
今ならアイリーンが、上流家庭の出身だということも、頷けました。


「こんなこともあろうかと、作らせといてよかったよ」

あっけにとられるハンスの目の前で、アイリーンは、得意気にポーズを決めて見せます。

『ハァ…
今度は、【甲板の上で舞踏会】…ですか?』

ハンスは、深いため息と共にそう尋ねました。

「バカッ!!
んなわけないだろッ!!」

ハンスの言葉に、アイリーンの平手打ちが飛びます。

『ッ!!』

「イタタタッ…」

アイリーンの容赦ない背中への平手打ちで、ハンスは堪らずしゃがみ込みました。
ただでさえ痛む背中の傷に、アイリーンの平手打ちが炸裂したのです。
平気でいられるはずは、ありませんでした。


《……何をしているんですか?》

激痛にしゃがみ込むハンスが顔を上げると、目の前には、あきれ顔のロジャーが立っています。

《ハァ…
傷口が開いたらどうするんですか?》

そう言って、ロジャーはハンスのシャツをまくり上げ、背中の傷を確かめました。

《…ああ、大丈夫そうですね》

ロジャーは、安堵したようにうなずき、アイリーンをジロリと睨みます。

《全く…、僕の仕事を増やすのはやめてくださいよ》

「ハハッ…わるいわるい
傷のこと、すっっかり忘れてたよ!」

アイリーンは、顔の前で両手を合わせ、謝りました。

《ハァ…、貴女は大丈夫ですか?》

そう言ってロジャーは、アイリーンの手を取ります。すると、アイリーンの両手の指先に、白い包帯がいくつも巻かれていたことに、ハンスは初めて気がつきました。


『…怪我したんですか?』

指先に巻かれた幾つもの包帯を指差し、ハンスが尋ねます。
すると、アイリーンは嫌そうに顔を歪め、慌てて両手を後ろに回しました。

「何でもないッ!!」

《そうそう、大丈夫ですよ?
…ククッ…ほんの小さな傷がいくつかあるだけですから》

ロジャーは、吹き出すのを必死にこらえているようです。
そんなロジャーをアイリーンは、忌々しそうにジロリと睨みつけました。

「あんたは一言二言多いんだよッ!!
だいたい、あんたが何でも器用に出来すぎるんだ。
ほんっと、可愛いげのないガキだよ!!」

《ビッグ・マムが不器用なだけでしょう?》

そう平然と言い返すロジャーに、アイリーンはますますカッカッして、今にも掴みかかりそうです。

『まッ、まあまあ…』

ハンスが慌てて二人の間に割って入りました。

『とッ、ところで…
どうしてロジャーまで、そんな格好なんだい?』

ハンスは、アイリーンと同じく、正装しているロジャーの姿に、首を傾げます。

「招待されたんだよ!
結婚式にね。」

『結婚式!?
……ああ、そうか!
そういえば、今日でしたね。』

アイリーンの言葉で、今日がアナの結婚式だったことに、初めて気づいたハンスは、納得したように頷きました。


《ビッグ・マム、早く出発しないと…》

「ああッ!
そうだった!!」

ロジャーに促され、アイリーンは、ポカンとしているハンスの腕を掴み引っ張ります。

「ほら、行くよッ!!」

『ちょッ、ちょっと!?
僕も行くんですかッ!?』

突然のことに驚くハンスを、アイリーンはお構い無しに、ぐいぐいと引っ張っていくのでした。