三題噺キーワード「感動」「戦争」「こけし」
キーワード提案者S・K(本名によりイニシャルに)
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「しっ、静かにしてろ…。」
そんな言葉では気休めにすらならない。
運が悪ければ、頭蓋を撃ち抜かれ、手足を一本ずつもぎ取られるような拷問にあう。
そんなことも起こりうる、非日常な日常である「戦争」の真っ只中に生きる一組の男女がいた。
「もう近くにいるの……?」
煤臭い棚に身を隠す女と、死角となる影に身を隠し、武器となるナイフを構える男。
二人は戦場の中心地域を隠れながら逃げてきた。
すでに運命の神様的なものが微笑んでいなかったら4回は死んでいただろうか。
現に今も2秒間隔で銃声は響いている。
人の悲鳴ももう今となっては実際に聞こえているものか、自分の脳が作り出した幻聴かははっきりしていない。
「あぁ、多分俺らの仲間を殺った奴等とは別の奴等がな。
あいつらは隙をついて俺が殺ってきた。」
男の目は異様にギラついていて、疲弊しきった兵隊のそれと大差はなかった。
生きるためには敵を殺すしかない、見付かれば殺られるし、隠れていていつ空から爆撃をうけるかもわからない。
そんな中で動いていたゆえだろう、その目も体もすでにほぼ力を無くしてしまっている。
しかしただ一つの希望のために生きることを投げ出さないでいる。
「だが…まさかな…仲間がどんどん死んでいくなかで…」
「ね、まさか…」
「あなたの赤ちゃんが生まれそうだなんて……」
見やればその腹はすでに臨月期というやつに近づいているからだろうか、完全に妊婦のそれである。
それは戦争の始まる9か月前に宿った、冬の命。
ただ確実なのは
この二人が逃げるのを止めれば
赤ん坊は死ぬために生まれることになるということ。
「絶対にここを切り抜けなきゃな……」
男の目に光が宿った。
「もし…名前をつけるなら…なにがいいかな?
いろいろ書いてみないか…?」
ふと、二人の間に柔らかな空気が流れる。
だから二人は気付かなかった、銃声がさっきより近づいていることに。
やがて、二人の隠れ家の戸に血生臭い手がかかる。
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老人は小さな助けを求める声を聞いた。
それは街の外れにある、焼け焦げたアトリエの方から聞こえた。
そのアトリエでは少し変わった主人がこれまた変わった、カラフルなこけしを作っていたはずだ。
戦禍から逃れ、自分の村へ早々に帰ってきた老人はとりあえず、と井戸に水を汲みに来て、その声を聞いたというわけだ。
「なんじゃのう……?」
中に入ろうと真っ黒で半分落ちかけた扉に手をかける。
その扉を見ただけでも戦争の悲惨さが伺えるが、中にはいると思わずその目を見開いた。
「まさか……赤ん坊かいのう……」
そこには死に絶えた男と
腹にナイフを突き刺され絶命した兵士と
死に絶えた女に抱かれ
私はここにいるぞ!とばかりに声を張り上げている小さな命がいた。
いや、女の方はかろうじて息があるだろうか。
状況から見て、男が二人を庇い兵士を殺したのだろう。
しかし男の頭は吹き飛ばされていて、血なまぐささが立ち込めていた。
「助……けて…」
切れ切れの声が女から発せられる。
「この子を………」
一言話すたびに生命力が失われていくようで、老人は優しい声をかけた。
名前でも考えていたのだろうか。
床にはナイフでたくさんの文字が刻まれていた。
中でも、彩葉、という文字に丸印がついていた。
「いろは……って名前かい、いい名前だね。後は私に任せておやすみなされ」
老人が女の頭を撫で、赤ん坊を拾い上げるとそれが合図だったかのように女は目を閉じた。
「おやすみなさい……二人の勇敢な戦士よ……」
老人はアトリエに背を向け、扉から出る。
空は雲と青空が3:7くらいの割合で広がっていた。
「あらあら、それが気に入ったのかい」
苦笑混じりに老人は言う。
赤ん坊の手の中には顔が半分焦げた、赤と青と黄色のとびっきり悪趣味なこけしがあった。
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「おかーさん!」
「どうしたの?彩華」
時代は20**年
「このこけし何!?変な色~、赤に青に黄色だなんて!!」
「ん?あ、それね。
私たちの一族に伝わる話があってね?
昔私たちの二人のご先祖様がいたらしいんだけど………」
奇しくもあのときとーー漢字は一文字違うけれどーー名前の同じ少女に話は語り継がれる。
これは、二人の勇敢な戦士の物語である。
End
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