『むろらんが抗がん剤がどういうものか理解した上で、
それを選択するならば、全力で支持しよう』
そう、思っていたわたしである。
が。
むろらんが手術後、抗がん剤をやると言った時、
わたしは反射的に、全力で反対した。
むろらんの手術=膵頭十二指腸切除術、
消化器で最も大きな手術は、医療チームがほれぼれするような、
見事なものだったそうだ。
だが、健康な臓器を含めて、内臓を大きく切り取っていることには、
変わりはない。
今まであったものが、無くなっている。
その機能が、失われている。
わたしの父はがんの手術で胃を全摘し、
小腸を伸ばして食道とつなげたが、その、伸ばした小腸が、
胃の代わりをすべく、だんだん変化していったらしい。
つまり、身体は臓器損失のストレスを、自身で補うべく、
自らの細胞を変化させ、代替するということだ。
この事象の説明は、遺伝子研究の第一人者、
村上和雄先生の話で説明がつく。
村上和雄先生の説では、ひとつの細胞には、
全身のあらゆる遺伝子情報がインプットされているという。
そして、どの遺伝子情報のスイッチをONにするかによって、
その細胞が形作るものが決定される。
眼を形作っている細胞は、眼を形成するべく、
眼の遺伝子情報をONにして、他の遺伝子情報をOFFにしている。
だから、眼の細胞は、鼻ではなく、眼たりうるのだと。
だから、父の例で言えば、胃という臓器が摘出され、
その機能を代替すべく、それまで小腸だった細胞のスイッチが切り替わり、胃の役割をするようになっていったわけだ。
それはまさに、細胞の変化というもの。
そこに、大きなエネルギーが注がれるのは、当然だ。
身体の全細胞が、自身を生かすために、
最大の出力で、自身を形成しなおしている。
身体はいつだって、「生」の方向に、働き続けてくれるのだ。
そんな大事な時期に、抗がん剤という、毒物を、身体に入れる。
考えただけで、鳥肌がたった。