令和5年、3月22日。



あたしが初めて拘置支所へと面会に行った日。



面会室に入って来てあたしを見るなり、大きな目から、大粒の涙をポロポロと流したね…。


まさか、来てくれるなんて思っていなかった、K子ちゃんとまた繋がれたのが嬉しくて仕方がない、と。


涙どころが鼻水まで垂らして、もう何喋ってるんだか聞き取れない状態。



長い付き合いになるけれど、Sちゃんが初めてあたしに見せた涙…。



うん、嘘ではない。

手紙に記してあった、あたしへの気持ち、嘘ではない、そう感じた。


それを確かめるための面会やった。



だって、信じられる?


大阪で付き合っていた頃は散々浮気され…。

Sちゃんが札幌に来てから…。

些細な喧嘩、ただの痴話喧嘩…。

それなのに、警察呼ばれて。

あたし、3週間拘留に行かされた…。

無罪放免で出て来たけど、濡れ衣着せられてさ…。


自分を3週間拘留へと追いやった元カレから、突然の手紙。

しかも、道警本部留置施設内から。


そこに記されていたのは、自責の念と、後悔、謝罪、今更の感謝、そしてあたしへの気持ち。


『叶わない片想いでもいい…。

やっぱり俺、君が好きやわ…。』



はい?何言うてんの?今更…。


自分で全部めちゃくちゃにして壊したんやろ。


で、自責の念に駆られて、あたしを忘れようとして、またシャブ食うてしもた…って。



ざまぁみろ、自業自得や。


率直な感想。


手紙の返事なんか書くわけもなく。


それでも、一方的に送って来たね。


ひたすら、あたしへの気持ちを綴って。



憎まれて当たり前や、知らん、あたしにはもう関係のない男や。



そう思っていたよ、初めは。



でも、毎日一方的に送りつけられて来る手紙。

便箋の文字は微かに震えている。



さすがのあたしも、拘留行かされた時は参った。

憎んだし、本当に辛かった。何も悪い事しとらんのに。

親を巻き込んで、引っ越しまでした。



でも…。

毎日送られて来る震えた文字の手紙を読んでいるうちに…。


一緒に暮らしていた頃の楽しかった思い出が頭をよぎる様に…。



『一度,面会行ってみよう。ちゃんと目を見て話し、自分の目と心の眼で、Sちゃんの言葉に嘘、偽りが無いかどうか、確かめて来よう』


そう思い、拘置支所へと初めての面会に。



大きな目から溢れ出す涙に、一点の曇り無し。

嘘では無い、確信した。


自分の目と、心の眼で見極めた。



男泣き。

泣くんやねぇ、Sちゃんも。


泣き過ぎて嗚咽を漏らすほどに。



わかった、わかった、Sちゃんの気持ちはよくわかったよ…。



今日、自分が流した涙、絶対に忘れたらアカンよ。



絶対に、一生忘れたらアカン…。





一言こう告げた。

『待っててやるから。何も心配せんでええ。

無事に務め上げて来い

』。