体幹トレーニング、バレエやピラティスは…技術的難易度が高いです
「先生に言われていることが分からない」といった経験はありませんか?
もしくは分かった気になっても実行できなかったり、具体的にはどうしたら良いのかもやもやしたり…
運動指導が、教える側・教わる側両者にとって難しい理由の一つは「教師・生徒間でその内容を共有することが難儀であるため」です。
(運動に限らず、あらゆる分野の教授で教師・生徒間の内容共有は険しい道ですが)
「正しい動き」は獲得し難く、その理由は単に「筋力や関節可動性の不足」だけではありません。
筋力や柔軟性だけの問題であれば、「現段階の筋力や柔軟性でできる範囲の運動であれば熟(こなせ)る」ということになります。
しかし、現実はそうではありません。
プレピラティスの基礎動作は運動強度が低く、強大な筋力や関節可動域は必要ありませんが、何度かセッション受講をしても上手に熟(こなせ)る人は少ないです。
その動作で求められている課題をなかなかクリアできないのです。
壁が高い理由は、まず「何を指導されているのか、何を言われているのか理解しづらい」ことにあります。
そこで、「教師に何か言われた時、生徒はその内容をどのように解釈していけば良いのか」という視点でお伝えします。
バレエで体得した理論なので、バレエも同様です。
まず、人体を「胴体(体幹)」と「それ以外(四肢・頸部〜頭部)」に分けてみます。
そして、それに優先順位をつけます。
プライオリティ1:胴体(体幹部・トルソー)
プライオリティ2:それ以外(四肢、頸部〜頭部)
優先順位が高いのは胴体部分です。
そのプライオリティが高い胴体部分を上手く操作できるようになることが、言葉そのまま「体幹トレーニング」の大きな目的の一つですが、ほとんどの人がこれまでの人生で「胴体を操作する」というアイデアの経験値がありません。
さらに、「動作」というものを解析していくと、そこには構造的な関係性が見えます。
上部構造:胴体(体幹部・トルソー)
下部構造:それ以外(四肢、頸部〜頭部)
川の上流と下流の関係のようなもので、結果が上から下に降りてくる構造です。
正しくない身体動作は体幹部に原因があることが多く、下部構造(枝葉:四肢・頸部〜頭部)が誤った動きをしている時、その上部構造(根本:体幹部)から修正していけると良いのです。
上部構造を改善すれば良い結果が下部構造に反映されますが、逆はありません。
下部構造(四肢、頸部〜頭部)の位置修正をしたとして、体幹部は何も変わらず愚鈍なまま、賢くならないのです。
つまり、指摘された箇所を直したつもりになっても動作は改善されない!
エラー発生の原因となる、枝葉が付いているその根本まで辿り着かなければならないのです。
繰り返しになりますが、この胴体部分を上手く操作できるようになることが、言葉そのまま「体幹トレーニング」の大きな目的の一つです。
ほとんどの人がこれまでの人生で「胴体を操作する」というアイデア未経験ですが、ピラティスを通じてその考え方を習得していただければと思います。
では、胴体をどのように操作すればいいのか?
こちらも、原則として下記のように考えてみてください。
胴体(体幹部):求心性
それ以外(四肢・頸部〜頭部):遠心性
胴体・体幹部は、中央に向かって集まる求心性方向への筋収縮をイメージできると良いです。
体幹から何かがはみ出ることなく、引き締まった腹筋、引き締まった背筋、引き締まったお尻、下がっている肩、全て中心軸に向かって集まる求心性の方向です
それと反対に、四肢・頸部〜頭部は遠心性で使います。
長く伸びた首、高い位置にある小さな頭、空間に伸びる長い腕、床を下方へ強く押す長い脚です
四肢・頸部〜頭部は遠くへ遠くへ、遠心性を追求したいです。
そしてほとんどの場合、人体はこの理想と逆方向に進みます
お腹ぽっこり、背中は丸まり、お尻は垂れ、肩は上がります
体幹部は求心性でありたいのに、中心軸から離れる方向へ向かってしまうのです
首は縮まり、頭は肩の間に落ち、手足を最大限伸ばす動作を終日行うことなく過ぎていく日々。
四肢・頸部〜頭部は遠心性でありたいのに、どんどん縮んできてしまうのです
胴体・体幹部:P1・上部構造・求心性
vs
四肢・頸部〜頭部:P2・下部構造・遠心性
(P:プライオリティ)
ここまでのプライオリティ1 vs 2、上部構造 vs 下部構造、求心性 vs 遠心性の考え方を踏まえ、いわゆる「体幹トレーニング」における原理原則を導きます。
【原理原則】
プライオリティ1と2は相反する、対立する動作になることが多い。
1 vs 2で勝負した時、勝つのは必ずプライオリティ1である。
優先順位が逆転しないよう、その原則に常に留意する。
上記の考え方を、各エクササイズにあてはめます。
以下はめるもでセッションを重ねている方に向けています。
【Arm Arc Saggital】で考えてみましょう。
「腕を長く伸ばし指先は遠くを通る」と言われたとします。
その言葉だけを実行して肩が上がり、肋骨が開いていたら?
体幹部がおろそかになっていますよね。
「あくまでも『体幹部が求心性』に働いているという条件下」で腕を長く伸ばし、指先は遠くを通るのです。
プライオリティ1:胴体(体幹部)
プライオリティ2:それ以外(四肢、頸部〜頭部)
優先すべきは体幹部の状態です。
「中心部に向かって集めたい体幹部」 vs 「遠くに伸ばしたい四肢」との戦いは、常に体幹部側が勝利したいのです。
プライオリティ1:体幹の求心性 vs プライオリティ2:四肢の遠心性
負けるな体幹!
【Arm Arc Open & Close】で考えてみましょう。
「Close時に両手の位置が近すぎる」と言われたとします。
そこで単に両手の位置に気をつけたとして、正解ではありません。
指摘された誤動作の発生源を考えましょう。
腕を閉じすぎてしまうのは背筋が抜けて両鎖骨がセンター方向に偏るため起こる現象です。
原因は上部構造:胴体(体幹部)にある背筋の収縮不足です。
上部構造:胴体(体幹部・トルソー)
下部構造:それ以外(四肢、頸部〜頭部)
腕の動きを注意されたら背筋をしっかり収縮させ、腕の動きに負けない強い背中を目指しましょう。
負けるな体幹!
【Chest Lift】で考えてみましょう。
「肘を開閉しない」と言われたとします。
肘の位置を固定したとして、正解ではありません。
指摘された誤動作の発生源を考えましょう。
肘が開いているのは腹筋が抜けて肋骨が開いているから起こる現象です。
肘を閉じすぎてしまうのは腹筋の代償動作で、腹筋が収縮しないため肘でその動きを代償しているのです。
原因は上部構造:胴体(体幹部)にある腹筋を使えていないことです。
肋骨が開いている人(リブフレア)は、まず呼吸の「呼気(吐く息)」を練習します。
呼吸筋は上半身全部の筋と考えて良いです。
呼吸の練習はまさに体幹トレーニングです。
吸気(吸う息)は受動的(passive)ですが、呼気(吐く息)は能動的(active)で自前の筋力、特に腹筋が必要です。
現代人は呼吸が浅く、息を吐き切る筋力が足らずリブフレア(肋骨が開いている)になっていることが多いです。
運動不足でも生きていける現代では酸素の重要性が薄れ、吐き切る前に吸う動作に移行してしまい、吐く筋力・肋骨を閉じる腹筋が育たないのです。
「現代人は呼吸が浅い」というフレーズはよく耳にしますが、肋骨が開きっぱなしであることを自分では体感しづらいです。
激しい運動をしたり、管楽器や歌唱に取り組む場合は自然と呼吸筋が発達しますが、そうでない場合はほぼ浅い呼吸のまま生活していると考えられます。
負けるな体幹!がんばれ腹筋!
【Dead Bug(Walking)】で考えてみましょう。
「膝を胸に近づけない」と言われたとします。
この現象は上げる脚だけに意識が向いており、体幹のAxial Elongationが失われている場合に起こります。
胴体を上下に引っ張り合っていないため、上げた脚につられて骨盤が後傾するのです。
Dead Bugは下肢の強化ではなく、脚を動かしても負けない体幹を作るための体幹トレーニングです。
意識する部位を脚ではなく、体幹部に向けてください。
プライオリティ1:胴体(体幹部・トルソー)
プライオリティ2:それ以外(四肢、頸部〜頭部)
負けるな体幹!絶対にAxial Elongationキープ!
さて、ここまでで「正しい動作というのは、まずその構造を理解しなければいけないのだな」とお分かりいただけたかと思います。
「何を指導されているのか、何を言われているのか理解しづらい」と述べましたが、答えの一つとして、「四肢・頸部〜頭部の状態に対し何らかの指示を受けた場合、体幹部を修正するのが原則」と考えてみてください。
言われたことを額面通りただ実行するのではなく、自らの力で誤動作の原因(体幹部状態の如何)に辿り着かなければならないため、正しい動作の実践は難しいのです。
先生に全て導いてもらえることではないので、己の思考力を鍛えなければいけません。
頭を使います。脳は常にフル回転で身体操作するのです。
言語の理解力(読解力)、そこから展開する想像力、空間認知力、構造を理解する力などなど必要になってきます。
実際のセッションで経験を積み重ねていくしかないのですが、現象に囚われすぎず、その本質を見抜く目を養いましょう。
絵が上手に描ける人は身体操作の獲得も上達しやすい傾向にあります。
言語での説明を受けつつ、理想的な絵を頭の中で描くようにしながらセッションを受講してください。
指摘された身体の一部分だけでなく、体幹部を含めた全体像を正しい形で思い描きたいのです。
それがイメージトレーニングです。アスリートは常に取り組み、技術向上につなげています。
【Foam Roller エクササイズ別 エラー修正方法】
【Foam Roller上で揺れるパート】
現象(エラー):体軸なく左右にぐにゃぐにゃと形が崩れながら揺れてしまう。
原因(体幹部にある):体幹部AE(上下方向への引っ張り)が失われているためポジションが崩れ、左右に揺らぎすぎる。
対処法(体幹部の操作):胴体を上下に引っ張り合う。
「プライオリティ1:上下のテンション張り」 vs 「プライオリティ2:左右への揺れ」では、常にプライオリティ1が勝利したい。
左右への揺れではなく胴体を上下に引っ張ること、ポジション・姿勢を保つことに意識を向ける。姿勢制御を怠らない状態で動くことが原則。
ここまでのエクササイズの動画(Foam Rollerのパート)↓
【Circumduction エラー修正方法】
他のエクササイズでも、この原則に則って解決法を自分で見つけていけると良いです
1. 教師に注意される内容は「起こっている現象、目に見える表面上のエラー」であることを知っておく。
2. エラーの原因は目視しづらいその根元の部分、体幹部にあると想定する。
3. エラーを指摘された枝葉の箇所のみ修正するのではなく、根元・体幹部の使い方を修正することで、エラーとなっていた枝葉の動作も合わせて直る。
【Opposition オポジション 反対・対立・逆方向】
1. 運動や筋力強化とは、あるエネルギーAとBが対立することによって成される。
2. なんの対立も起こらない:例)Aエネルギーに対しBがあっさり負けている場合、筋力強化・トレーニングにはならない。
3. 負けやすいエネルギー側(弱い筋肉)を強化していくこと、身体の使えていない箇所を見つけることからトレーニングは始まる。
4. 教師に注意を受けた時、「エネルギーA vs Bの対立が起こってほしいのにそれが成立していない。どのエネルギーとどのエネルギーの対立が起こるべきなのか、自分の場合どちらが負けているのか」と考えてみる。
そう考えることで「自分ががんばらなければいけないのはどこの部分なのか(※それは注意された箇所そのものではない)。どこに意識を向ければ動作が改善するのか」、その答えを導けるようになってください。
「言うは易く行うは難し」…「弱い筋肉を見つけて鍛えてください」と言うのは簡単ですが、現実は非常に難しい取り組みです。
弱い筋肉は感覚もほぼないため、「ないものを感じ、目に見えないものを見ろ」と言われているようなものです。
だから言われていることが分からないのです。これは仕方ないですよね。
それでも、感覚・筋力というのは追求し続ければ少しずつ向上していきますので、同じ注意を百万回でも繰り返されつつ、諦めずに向き合いましょう。
それがリハビリです
リハビリと筋トレは同義です
身体の動かない箇所を少しでも動かせるようになるよう、日々リハビリに取り組んでいきましょう