泣くのを

我慢して帰って来た。
 
 
 
 
 
ものすごく
惨めだった自分を思い出したから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
月曜日の夜から
偏頭痛がやって来て
例の如く七転八倒の苦しみを味わい
起きていた時か眠っていた時かもわからないが
「本当はどうして欲しかった?」
という声がした。
 
 
 
 
 
またこれか。
 
 
 
 
 
どうしたいもこうしたいも
私には
望む術がないのだ。
 
 
 
 
 
あの時本当は。
あの時本当は。
 
 
 
 
 
それを思ったところで
時間は戻らない。
思った通りに、なりはしない。
 
 
 
 
 
あの人は、戻ってこない。
 
 
 
 
 
そうじゃなかった現在を 未来を
思い描くことさえ
私にはできない。
 
 
 
 
 
娘が言った。
「パパとママが離婚しても、私は幸せだよ」
 
 
 
 
 
たぶん娘は、私を喜ばせようとして言ったのだと思う。
私は
それを聞いて、笑ったのだろうか。
 
 
その言葉の後ろに
どれだけの悲しみがあったのか想像できるから
喜べなかった。
 
 
 
 
 
あぁ
私がいる。
とも思った。
 
 
 
 
 
私も、何度も思ったからだ。
「ママが死んでも、私は幸せだよ」
と。
 
 
 
 
 
そう、ずっと思っていた。
事実、幸せだと感じていた時間は無限にあった。
何不自由なく育ててもらった。
「ママが死んでも、私は幸せ」
その気持ちに嘘はないのに。
 
 
 
 
 
本当はどうして欲しかった?
 
 
 
 
 
そう問われれば
私は間違いなくこう思うのだ。
 
 
 
 
もっと母親から愛されたかった。
 
 
 
 
 
でもそう思うことは
死んだ母親を傷つけることになるから。
死んだ人を悪く言うことになるから。
望んだって、意味がないから。
 
 
 
 
 
だって、好きで死んだわけじゃない。
もっと生きたいって言って死んだ人だ。
その時精一杯の愛情で育ててくれていたってわかりきっている。
だから、絶対思っちゃだめだ。
母親がいなくても、私は幸せだ。私は幸せなんだ。
だって家族で協力してこれたし。
友達だっているし、親戚だっているし。
大学まで行かせてもらったし。
愛情が足りなかったことなんてない。
精一杯で愛されてたんだ。
私は幸せだ。
 
 
 
 
 
って一生懸命に思おうとしていた・・・・・
 
 
 
 
 
そのことに、気が付いてしまった。
 
 
 
 
 
愛されていたってわかっている。
 
 
 
 
でも
 
 
でも
 
 
 
それでももっと一緒にいて、もっと愛されたかったよ。
 
 
 
 

 
 
 
 
 
離婚の話をしている時
元旦那さんが私に言った言葉がある。
 
 
 
 
 
「母親が早くに死んで、愛情が足りないんだろう。
だから人の心がわからない。」
 
 
 
 
 
その一言は
会心の一撃で
私を傷つけるには十分すぎた。
 
 
 
 
 
私が必死に守っていた部分を
いとも簡単に
あっさりと攻撃してきて
そこに深い悪意を感じた。
 
 
 
 
 
その時は
なぜ自分がその一言にそんなに怒りを感じるのか
わからなかった。
 
 
 
 
 
今ならわかる。
 
 
 
 
 
私は
自分が母親からかけてもらった愛情が少ないと思っていて
でもそのことを認めたくなかった。
惨めになるから。
価値がないって言われているみたいで
自分が足りないみたいで
すっごくすっごく
惨めになるから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
別れた人のことを
憎み切れなかったのも
きっと同じ理由だった。
 
 
 
 
 
別れた人のことを悪く言うのは良くない。
彼には彼の事情がある。
きっと彼なりに大事にしてくれていた。
それでも、私が好きになった人だし。
 
 
 
 
 
って必死で思っていたんだ。
 
 
 
 
 
彼を守って、自分の気持ちは一生懸命抑えて
 
 
 
 
 
これが
「人のせいにしない」
ってことだって自分に言い聞かせて。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
本当は、そんな愛され方じゃ全然足りなかったし
もっと私のことを気にかけてほしかったし
まぁまぁ最低なことをされたし
私がどれだけの覚悟で好きだったかも、全然わかってない。
わかってる風だったけど、私の気持ちなんて、100分の1もわかってない。
 
 
 
 
 
わかってほしかったよ。
 
 
 
 
 
愛されたかったよ。
 
 
 
 
 
あやまってよ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そうだ、本当に私はいつだって
愛されたくて
構われたくて
わかってほしくて
ずっとずっと生きていたんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それをね
今の彼氏といるとね
すっごい突き付けられてくる。
 
 
 
 
 
あの時・・・
私、こうされたかったんだね。
 
 
 
 
 
って
 
 
上手く 想像できない私に
 
現実として
 
「こうが良かったんじゃない?」
 
って見せてくれている感じがする。
 
 
 
 
 
娘も
 
私が、母親としたかったことを
叶えてくれているような気がしてならない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
天の使いなのかなこの人達。