大好きな人に
時計を買ってもらった
こっそりお揃いになるように
同じブランドで
でも種類は全然違う
ひと目見ただけでは
お揃いとはわからない
私たちだけの秘密
最初の秘密
その頃も今も
私が自分で買おうと思い至らない
ハイブランドの腕時計
大切だった
大切だから
毎日身につけた
その時計以外は
目に入らなかった
ある日、その時計が止まってしまった
私は、迷って
でも
そのブランドの路面店に
修理に出した
安くはないお金をかけて
その行為は、私の「大切にする」ということそのものだった
でも
彼には
それがあまり伝わらなかった
駅前の
リペアショップに出せば
もっと安くすむのに―――
そんな言葉が
透けて見えた
私は
その空気に胸が痛まないほど
「私が正しい」世界には生きていなかった
その時計は無事私の手元に戻り
時を刻んでくれていたけれど
再び
止まってしまった
私は
その時計を身に付けず
そっと
ジュエリーボックスにしまった