世間では、レバ刺特需が起きているらしい。
7月1日から飲食店でのレバ刺の提供が禁止されるから。

でもねぇ、それが禁止されるのは、食中毒の危険があるからであって、
昔からレバ刺を出してた店でも夏場は提供を控えていたものなのに、
何を好き好んで危険な時期に食べに行くのでしょう。

実際、食中毒になった家族がニュースになってたりします。

毎日新聞 2012/6/28
食中毒:居酒屋で生レバーなど食べ、4人に症状 福岡
http://mainichi.jp/select/news/20120628k0000e040174000c.html

はっきり言って、全く同情できません。
なにより、親が10歳に満たない娘に食べさせてたのは、言語道断です。
テレビでも新聞でも、幼い子供に食べさせるなとさんざん報道してたのに、
馬鹿としか言いようがありません。
児童虐待と言ってもいいでしょう。

さて、こういう親ほど馬鹿ではないものの、
レバ刺禁止に対して、「放射線照射を許可すればいい」 という、
間の抜けな報道をしているところがあります。

レバーの内部に入り込んだO157を、加熱せずに死滅させるために、
放射線照射を利用しようというのです。

その考え自体は間違いではありません。
放射線照射による殺菌は、危険なものではありません。
微量の放射線を照射された肉が、放射能を帯びることもないし、
スライムのようなモンスターになることもありません。
ただ、日本では食品衛生法で禁止されているから、
許可するように法律を変える必要はあります。

ですが、放射線照射で全てが解決するかといえば、そうではありません。

まず、原子力委員会 食品照射専門部会の以下の報告があります。
===============================
食品照射は、サルモネラ菌、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌O157など、食品衛生上大きな問題となる病原性微生物の大部分を比較的低線量で殺菌することができるという特長を持っている。ただし、ウイルスは放射線に対する感受性が低いため、食品の価値を損なわない線量範囲の照射で、完全に不活性化することはできない。
===============================

つまり完全ではないということです。

そしてもうひとつ。
O157を殺菌する程度の放射線照射では、
O157が放出した毒素を消すことができない

という問題があります。

O157による食中毒は、O157が放出するベロ毒素によるものです。
レバーの中に潜んだO157が死滅しても、放出したベロ毒素は残っています。
しかも、O157は死滅するときに大量のベロ毒素を放出すると言われています。
そしてベロ毒素は、かなり安定した毒素で、
例えば、O157が 75℃ 1分の加熱で死滅するのに対して、
ベロ毒素を不活化するには 80℃10分の加熱が必要

とされています。
それは放射線照射に対しても同様で、
食材としての質感を失わずにベロ毒素を不活化するのは、
ほとんど無理
なことなんです。

まぁ、レバ刺を食べない私には関係ありません。
食べたい人は、どうぞご自由に。

参考)

食品衛生法における食品照射の取扱いについて
平成18年5月 厚生労働省医薬食品局食品安全部
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/syokuhin/siryo/syokuhin06/siryo2.pdf

食品への放射線照射について
平成18年9月26日 原子力委員会 食品照射専門部会
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/syokuhin/detail/20060926.pdf