医仙の日常<初夏> 百十瑩 | ハヤブサ的高麗観察記

ハヤブサ的高麗観察記

~ Description of Goryeo observation of Merlin ~

 
 
 
 
 
「何れにしろ某の手抜かりです。
 義禁府ウイグムブに誰ぞ配して居れば
 手掛かりを得られたものを。
 某の考えが及ばず
 見す見す機会を
 無駄に致しました。」

如何にも残念無念の表情を
浮かべた副長。

「義禁府からは
 全てが終わった後
 報告を受けたのであろう。
 そもそも管轄外の事だ。
 知らせが来ただけでも
 良しとせねば成るまい。」

ヨンは副長の肩を
ポンと叩いた。

「はっ。」

「此度は目的を果たせなんだ。
 来るぞ、今一度。
 次は確実に
 目的を果たすであろう。
 故に監禁場所を悟られず
 其れと共に
 襲撃に備えよ。」

ヨンが最低限の指示を出す。

「はっ。
 心得ました。」

次は必ずや生け捕りに . . .
手掛かりを失くして成るものか

チュンソクはそう心に決める。

「副長。
 其の方ならば抜かり
 事に当たれるであろう。
 だが呉々も用心致せ。
 誰一人、命を無駄にせぬよう。
 良いな。」

「はっ。
 では某は此れにて。」

副長は座ったまま一礼すると
静かに立ち上がり
戸口まで後ずさりすると
再び一礼して退室した。



「隊長も医仙の傍に
 居りたかろう。
 此処は他の者に任せれば良いと
 申してやりたいのは山々だが、
 済まぬな。
 今暫く余に付き合うてくれ。」

「はっ。」





チュモと共に、
典医寺に向かうウンス一行。
その一行を物陰に隠れながら
追う怪しい人影。

医仙様。
  如何やら後をけられて居る様です。


チュモは歩みを止めずに
右脇を歩くウンスに告げる。

えっ . . .
 まさか徳興君?


ウンスは思わず
振り返りそうになった。

如何か其の儘振り返らず。

あ、うん。

徳興君ではないと、某は思います。

そう?

あの御仁成らば
  窃窃こそこそする事等在りますまい。
  恐らくは素人、別人でしょう。
  思い当たる輩が
  居らぬ訳では有りませぬが
  兎に角急ぎましょう。
  あと今少しです。
  其の儘気付かぬ振りを
  お続け下され。


ウンスの左隣に
ピタリと寄り添い、
チュモは周囲に目を配る。

わかったわ。



一行の後を尾けながら
その光景を見ていた男。
ウンスの隣を歩くチュモを
忌々しく睨みつけていた。

何時もは武閣氏二人と
聞いて居ったのに
迂達赤が一人
余計に付いて居るとは
兎に角邪魔だ. . .
彼奴が居っては医仙を
攫うて逃げる事は出来ぬ
ええいっ、全く忌々しい!

身を隠した木の幹を叩き
拳を震わせる
イム・ビョンチャン。

ミランの居所も分からず
あの方の援護も無うなった
ミランを救うには
医仙と交換するしか
最早手は無い
其の為にも早う医仙を攫うて
何としても
ミランを救い出さねば . . .
あの方に始末される前に
早う何とか救わねば . . .


表向き何食わぬ顔で
役人として振る舞い、
裏では人を使って
様々な悪事を重ねて
伸し上ってきたこの男。
何時の頃からか
汚れ仕事は
この男に成り代わって
ミランが仕切ってきた。
もはや娘無しでは
伸し上る術を持たない。
娘の存在こそが
自身が生き残る術なのである。

ミランの暴走が発覚し
徳興君の後ろ盾を失くし、
今回初めて
自ら行動を起こし
娘を救おうと
機会を狙っていたのだ。