「何れにしろ某の手抜かりです。
手掛かりを得られたものを。
某の考えが及ばず
見す見す機会を
無駄に致しました。」
如何にも残念無念の表情を
浮かべた副長。
「義禁府からは
全てが終わった後
報告を受けたのであろう。
知らせが来ただけでも
良しとせねば成るまい。」
ヨンは副長の肩を
ポンと叩いた。
「はっ。」
「此度は目的を果たせなんだ。
来るぞ、今一度。
次は確実に
目的を果たすであろう。
故に監禁場所を悟られず
其れと共に
襲撃に備えよ。」
ヨンが最低限の指示を出す。
「はっ。
心得ました。」
次は必ずや生け捕りに . . .
手掛かりを失くして成るものか
チュンソクはそう心に決める。
「副長。
其の方ならば抜かり
事に当たれるであろう。
だが呉々も用心致せ。
誰一人、命を無駄にせぬよう。
良いな。」
「はっ。
では某は此れにて。」
副長は座ったまま一礼すると
静かに立ち上がり
戸口まで後ずさりすると
再び一礼して退室した。
「隊長も医仙の傍に
居りたかろう。
此処は他の者に任せれば良いと
申してやりたいのは山々だが、
済まぬな。
今暫く余に付き合うてくれ。」
「はっ。」
チュモと共に、
典医寺に向かうウンス一行。
その一行を物陰に隠れながら
追う怪しい人影。
「医仙様。
如何やら後を
チュモは歩みを止めずに
右脇を歩くウンスに告げる。
「えっ . . .
まさか徳興君?」
ウンスは思わず
振り返りそうになった。
「如何か其の儘振り返らず。」
「あ、うん。」
「徳興君ではないと、某は思います。」
「そう?」
「あの御仁成らば
恐らくは素人、別人でしょう。
思い当たる輩が
居らぬ訳では有りませぬが
兎に角急ぎましょう。
あと今少しです。
其の儘気付かぬ振りを
お続け下され。」
ウンスの左隣に
ピタリと寄り添い、
チュモは周囲に目を配る。
「わかったわ。」
一行の後を尾けながら
その光景を見ていた男。
ウンスの隣を歩くチュモを
忌々しく睨みつけていた。
何時もは武閣氏二人と
聞いて居ったのに
迂達赤が一人
余計に付いて居るとは
兎に角邪魔だ. . .
彼奴が居っては医仙を
攫うて逃げる事は出来ぬ
ええいっ、全く忌々しい!
身を隠した木の幹を叩き
拳を震わせる
イム・ビョンチャン。
ミランの居所も分からず
あの方の援護も無うなった
ミランを救うには
医仙と交換するしか
最早手は無い
其の為にも早う医仙を攫うて
何としても
ミランを救い出さねば . . .
あの方に始末される前に
早う何とか救わねば . . .
表向き何食わぬ顔で
役人として振る舞い、
裏では人を使って
様々な悪事を重ねて
伸し上ってきたこの男。
何時の頃からか
汚れ仕事は
この男に成り代わって
ミランが仕切ってきた。
もはや娘無しでは
伸し上る術を持たない。
娘の存在こそが
自身が生き残る術なのである。
ミランの暴走が発覚し
徳興君の後ろ盾を失くし、
今回初めて
自ら行動を起こし
娘を救おうと
機会を狙っていたのだ。