医仙の日常<初夏> 百玖 | ハヤブサ的高麗観察記

ハヤブサ的高麗観察記

~ Description of Goryeo observation of Merlin ~

 
 
 
 
 
指し示された方向に目をやり、
チュモを見つけるとにっこり微笑み
ウンスは歩み寄る。

「チュモさん。」

「医仙様。」

チュモはいつも通り
ウンスに会釈した。

「どうしてここに?」

「隊長の指示で
 医仙様の本日の警護に
 着く事に成り申した。
 此方の文を隊長から
 預かって居ります。」

そう言うと
懐から出した例の書付けを
ウンスに差し出した。
ウンスは黙ってそれを受け取ると
丁寧に開いて目を通した。

── 矢張り武閣氏二人では心許無い。
  私が迎えに参る夕方迄
  チュモに警護を命じた。
  イムジャは気にせず
  何時も通りお役目に励む様に。──

確かにヨンの書き記した文字ハングル
ヨンらしい簡潔な文章に
ウンスは納得した。

つまり今日は
テマン君がいないってわけね

「夕方までチュモさんが
 警護に加わってくれるのね?」

「はっ。」

「で、いつからここに?」

「医仙様が此方に到着されて
 直ぐでは無かろうかと。」

「そうなんだ。
 でもよかった。
 実は困ってたの。」

「如何為さったので?」

「徳興君を見かけたんだけど。
 あっ、遠くでよ。
 庭園の端っこと端っこね。

 あの人、怪しい物も使うし、
 何よりイヤらしい目付きで
 しつこいでしょ?
 だから気が付かないふりで
 ここまで大急ぎで歩いたの。
 まぁ、逃げ込んで来たって
 言った方が正しいかも。

 あっちが気が付いたかどうかは
 わからないわ。
 だけど、もしかしたら
 追って来てるんじゃないかと
 思って。
 足音がね、
 後ろから聞こえたのよ。
 それでね、
 もうホントに大急ぎで
 ここまで来たの。」

「其れはもしや
 某の足音では有りますまいか。」

「えっ?」

「あと少しで追い付くと言う所で
 坤成殿にお入りに成られた由。
 かなりの速さで
 お歩きに成っていらした。」

「あ~っ。
 てっきり徳興君だと思って、
 必死で歩いたのよ~~。
 ホントはもう
 走り出したいくらいだったのよ。」

「其れは . . .
 申し訳けありませぬ。
 早うお声掛け致せば
 良うございました。」

「あっ、いいのいいの。
 あの人じゃないってわかったから。
 安心したわ~。
 ねっ?」

ジヘとミンジに同意を求めた。

「はい、医仙様。」

二人はにっこり笑って頷いた。
チュモも薄っすら笑みがこぼれる。

「でもよくここだとわかったわね。」

「典医寺にて
 此方に向かわれたと
 お聞き致しましたゆえ。」

「お~。
 そうなんだ。
 おかげで助かったかも。
 今日は調子が出なくて
 あの人の、
 徳興君の相手は
 正直しんどかったのよ。
 まっ、だから無視して
 ここへ逃げて
 来ちゃったんだけどね。」

「左様でしたか。
 成れど此処からは
 某が居りますゆえ
 ご安堵召されませ。」

「ありがとう。
 すごく心強いわ。
 ジヘとミンジを信用してない
 わけじゃないんだけど、
 とにかくあの人は
 一筋縄ではいかないでしょ?
 どうなるかわからないじゃない。
 予測不能?って言うの?
 だからホント助かる~。
 それじゃ、
 さっそくお願いできる?
 戻りたいんだけど。」

ヨンからの文を丁寧に畳み直し
それを懐に大事に仕舞って、
ウンスは帰りたいとチュモに告げた。

「承知致しました。」

「お願いします。」

「では参りましょう。」

チュモの先導で一行は典医寺へと
歩き出した。