その日は年に一度の健康診断であった。
朝食を食べていない彼は抜けがらのような姿で、待合室のソファーに座っていた。
「みやじさん! 血圧を測りますのでこちらへどうぞ」
彼は立ち上がると血圧測定の場所へと歩みを進めた。
その時、目の前にいる看護師のこれまで見たこともないような胸の大きな膨らみが彼の目に飛び込んできた。
「おっ、おぉ~」
口には出さなかったものの、思わず絶叫しかけてしまった。
心臓の鼓動は高鳴り、全身の血液が勢いよく逆流しているような感覚を覚えた。
その看護師によって、腕にカフを巻きつけられたときには、すでに失神する一歩手前だった。

「上が168で下が137……高いですねぇ」
心配そうな顔つきで看護師は彼に話しかけた。
「だ、だ、だいじょぶです……」
彼は看護師の豊かな胸を見つめながら、そう言葉にするのが精一杯だった。
「緊張して高いのかもしれませんから、あとで落ち着いたらもう一度測りましょう!」
看護師はそう言って、次の検査へ行くよう彼を促した。

15分後。
彼は再び血圧測定をしていた。
さきほどの看護師は見当たらず、彼の前にいるのはいわゆる微乳タイプ。
「上が123、下が78……正常ですね」

胸の大きさだけでこれほどまでに生理現象に起伏が出てしまう彼……本当に残念な男だ。
最近彼はフィリピンパブにハマッている。
ご執心の女の子は、まだ日本に来てそれほど月日が経っていない新人のジェニーだ。
Fカップの谷間を露わにして、彼の肩にもたれかかってくるところが大好きなのだ。

帰り際、ジェニーはたどたどしい日本語でこう口にした。
「ミヤジサン、アイシテルヨ! マタキテネ! クビナガ~クシテマッテルヨ!」
彼は満面に笑みを湛えながら、うれしそうに答えた。
「ジェニー。それ日本語間違ってるよ。首を長~くして待ってるじゃなくて、おっぱいおっきくして待ってるだ!」

彼は右も左もわからぬ外国人に、正しい日本語の使い方を教えたことに満足し、意気揚々と店を出て行った。
彼は“ポンコツくん”というあだ名を非常に気に入っている。
夜な夜な街に繰り出すたびに、店の女の子への自己紹介は必ず“ポンコツくん”だ。
しかも「トンコツじゃないよ! アンポンタンの“ポ”だから!」と付け加える。

彼は“ポンコツくん”というあだ名が大好きである。
自己紹介したあとに、『アメトーーク!のポンコツ芸人』の話題をする女の子には必ずこうたしなめる。
「俺なんか、『アメトーーク!』で『ポンコツ芸人』が出るずっと前からポンコツ張ってるからね!」

彼は“ポンコツくん”というあだ名に自負を抱いている。
英語で書けば“ponco2”!!
なんとかっこいいあだ名なんだ!

これぞ、芯の通った男の言動だ。
人間は常に成長する。
彼も日々成長している。

ある日の朝礼でのこと……。

「俺は売上を今の5倍にする! 俺はこの目標を絶対に達成する! 俺は絶対に勝つ!」

支店長が檄を飛ばしていた。

「こういった目標を達成するのに一番重要なのは、決断することだ! 心に決めるんだ! 心に誓うんだ! 心に刻むんだ! 決断なくして、目標達成はありえない! 決断をすれば、必ず道は開けるんだ!」

彼はあくびを噛み殺しながら、支店長の話を聞いていた。
……どうせどこかで読んだ本の受け売りでしょ!?
……自分だって思うように売上伸ばせてないくせに!!
彼はそっと机の抽斗を開け、忍ばせてある雑誌『メロン乳』の表紙を眺めた。
……はやく終わらねぇかなぁ。

「おい! みやじ! 聞いてるのか?」
突然名指しされた彼は、あわてて抽斗を閉め、支店長の方に向き直った。
「支店長! もうわかりましたから! 決断でしょ!? 何事も先送りしないで、決断して、行動に起こせってことでしょ!? わかりましたよぉ……」
彼の言い草に憤りを覚えた支店長はゆっくりと腕を組み、彼を睨みつけながら言い放った。
「じゃ、おまえは、今この瞬間、何を決断するんだ?」

事務所に緊張が走った。
支店長の怒りが事務所中を覆ったのだ。
事務所に居合わせたスタッフ誰もがうつむいていた。
十数秒後、そんな緊張を破るように、彼は明るくこう答えた。
「俺なんか、毎日決断してますよ! いつかは何かを決断しようっていう決断をね!」

日々成長を続ける男は、やはり一味違う。
『搾乳』って言葉……なんだか興奮するなぁ。

$ポンコツ伝説 ~男の真髄~-搾乳

そんなメールが彼からきた時、オイラはファミリーマートで『森永プリンキャラメル』を発見し興奮していた。

$ポンコツ伝説 ~男の真髄~-プリンキャラメル

44歳バツイチ。
どっちもどっちだ。