その女生徒は訥々と語りだした。
元《狼》、辻恋という男について。
どうも、中道恭一です。高校に入ってから何かと色濃い生活を送っております。
生徒会に入り、総額250円位の昼飯を死ぬ気で取り合って、そして屋上で怪しげな女生徒にあっています。(屋上の鍵はなぜか空いていました)。
というか、生徒会で自分以外女子、役職副会長と聞くと、他の作品をいくつか思い描いてしまいますが、それはそれです。
そもそも、パロディで構成されているのですから、気にしたら負けです。
「中道君だよね?」
と、最近の多忙ぶりを振り返っていた俺は、女生徒の声で現実に戻る。
ちなみに俺がさっきから連呼してる女生徒とは、《狼》の一人である黒髪から紹介された人物で、なんでも知っていると専らの噂の人物だ。
「私の名前は、宇都宮(うつのみや)。敬意と親しみをこめて栃木ちゃんと呼びなさい」
「そのあだ名は止めたほうがいいと思いますが…」
「それは、このあだ名をつけた藤田君に言いなさい」
誰だよ。
「えーとじゃあ栃木ちゃん」
「私は先輩よ。ちゃん付けとは何様のつもり?あと、栃木ちゃんはあまりに失礼よ。栃木と私に謝りなさい」
早口でペラペラと喋った彼女に
「ええええ!?」
としか返せなかった俺は、駄目だろうか?言い訳として、初対面の人間に突っ込むことは微妙に勇気がいることを言っておく
「さぁ、謝りなさい」
「本気ですか!?なんで俺が!?」
「栃木。それは、かんぴょうの生産量が日本一位という非常に微妙な県よ。でもなぜかんぴょうなのか。それを考えたことはある?お寿司の中で全く目立つものでは無いにしろ、根強い人気を誇るかんぴょう。納豆巻きなんて糞くらえ、俺たちはかんぴょうを愛する同士たちの為に生きているんだ。そんなことを言われている気がしてこない?素晴らしいと思わないの?それを栃木ちゃんだなんて馬鹿にしたあなたの罪は重いわ。私はかんぴょうは嫌いだし、栃木の『栃』の字は未だに書けないけれど」
「むしろ、馬鹿にしてるのはあなたでしょ!!」
ツイッターで呟けないほどの量喋って、結論それかよ!栃木の『栃』を俺より年上で書けない人初めて見たよ!確かにこれの作者も書けなかったりするけど!
「じゃあ、栃木には謝らなくていいわ、でも私にだけは謝って頂戴」
「んーまぁ、仕方ない。すみま…って、なに妥協した感じで謝らせようとするわけ!?俺が謝る必要皆無だよね!!」
なに、ナチュラルに謝らせようとしてんの、この人!
「ふー、失礼な後輩ね。でも、ここで怒らないのが大人、先輩の務めよね。先輩っていうのも楽じゃないわ……」
「その百倍後輩の方が大変ですよ…」
初対面なんだけどなぁ、この人とは。いや、まぁ、フランクでいいのかな?
というか、この人、良く噛まずにべらべらと喋れるな。ようやく黙ってくれそうだけど。
「じゃあ、仲直りの証として、栃木ちゃんと呼びなさい」
「今までの会話ループだよ!!いい加減黙れよ!」
「黙れだなんて、失礼な後輩ね。でも、ここで怒らないのが大人、先輩の務めよね。先輩っていうのも楽じゃないわ……」
「そこもループ!?」
結局、俺と彼女はそんな漫才をその後10分程続けた。
「さて、では、本題に入ろうか」
彼女-宇都宮さんがそう言うころには、俺はもう疲れていた。もちろん彼女につっ込み続けたからである。
ライトノベルの主人公の気持ちが少しわかった気がする…。
「君が聞きたいことは辻恋君のことだったよね?」
どうやら、黒髪が先に言っといてくれたらしい。喋り疲れて、声が嗄れていたので、俺は彼女の言葉に頷き返す。
そして彼女はにっこり笑って、
「中道君は私のボケに律儀のもツッコんでくれたからね、特別にタダで教えてあげよう」
と言った。どうやら、通常なら何か払うらしい。エンドレスなボケに付き合ってよかった。
「さて、心して聞くんだ。最強だった《狼》の話を」
彼女はそう言って、訥訥と話し始めた。
「その《狼》の名前は辻恋一郎。兄弟のどちらも名前に一が入るっていう親のセンスには感服するよ」
「さて、その辻恋君が《狼》をやめたのはちょうど去年の今頃かな」
「そう、花見弁当だ」
「あれ?中道君は知らなかったかい?」
「争奪戦に参加してれば自然と耳に入ってきたと思うんだけど」
「まぁ、知らないのなら教えてあげよう」
「私は意地悪ではないからな」
「でも、教える程のものでもなくて、名前通り、花見の時期、一年に一回だけ10個限定で売られるんだ」
「この学校の桜は随分遅咲きだからね」
「話を戻して、花見弁当。10個限定のそれを《狼》達は皆狙う。当たり前さ。それを取れば名が売れるからな。一気に二つ名を持つことだって出来る」
「そして、ここでやっと辻恋一郎の登場だ」
「彼が二つ名を得たのは高校一年生の四月。その異例のスピードで彼が二つ名持ちになった理由、それが花見弁当だ」
「彼は一年生で、何人もの《狼》-しかも、花見弁当のためにいつもより力が入ってる奴らを相手に、見事弁当を奪取したのさ」
「その時の様子は、まさに圧倒的だったらしい。私が入学する前のことで人伝でしかないが、誰に聞いても辻恋一郎の圧倒的実力は保証されている」
「さらにそれは、二つ名にも如実に現れている」
「攻撃されても全く揺るがない鉄壁の防御と、砲撃が如し拳。その二つから彼の二つ名は」
「『要塞』と言った」
「そんな彼は、二年生の花見弁当も当然のように取り、その最強ぶりは他を寄せ付けなかった」
「…いや、一人だけいたか。辻恋一郎に近い男が」
「確か『爆弾』と呼ばれた《狼》だったな。こいつだけは近かったな。差はやはりあったが」
「閑話休題。こいつは事件当日も休むし、あまり関係ない」
「さて、それで辻恋一郎の話だが、こいつは三年生になって当然のように花見弁当を獲るつもりでいた」
「しかも、彼が花見弁当を食えるのはこれで最後。彼は相当力をいれていた。その時は私も現場にいたよ」
「その日もいつも通り彼が購買に向かった。だが、なにか様子が変。皆、自分を注目しているのだ」
「確かに、二年連続で弁当をとっている彼を注目するのは当然だったんだが、なんというか注目の種類が違った」
「そう、どこか申し訳なさそうな、そんな目で《狼》達が自分を見ているんだ」
「そしてその数秒後、理由が分かった」
「陰から出てきたその時の生徒会メンバー全員が、自分に向かってきたからだ」
「争奪戦では特殊体質は使ってはならない、という暗黙のルールがある。なぜなら個人でも危ないのに、あんな乱戦で使うなんて自殺行為だからだ」
「だが、あの時の生徒会は全力で辻恋一郎を、『要塞』を潰しにかかった」
「全力。つまり特殊体質を使って、だ」
「彼も奮迅した。触れれば火傷する手も、攻撃したら逆にダメージを負う体も、蹴られたらひとたまりもない脚も、圧倒的不運も、全てを生身で相手にして」
「でも、やっぱり敵うはずなかった。ボロボロになり、しばらく立ち上がれないほどにやられて、そして」
「花見弁当を逃したのだ」
「じゃあなぜ彼は狙われたのか」
「理由は簡単。強すぎたからだ」
「彼がいると、物をとれないから」
「それだけ」
「ただ、争奪戦で、それは全て。取れなきゃ意味がないんだ」
「だから、他の《狼》が生徒会に依頼したんだ」
「-辻恋一郎を潰せ、と」
「その日以来、彼が争奪戦に来ることはなかった」
「そうして、最強の《狼》は、《狼》を辞めたんだ」
彼女、宇都宮さんはふぅ、と息をつく。さすがの彼女もあれだけ長く語れば、疲れるものだろう。
「しかし、そんなことがあったなんて」
俺は思わず口に出してしまう。それだけ意外だったのだ。あの場で、そんな暗いことがあったことが。
全員が敵、昼飯を買うのが全て、というあのスッキリした部分。争奪戦の魅力であるところが、話を聞く限りでは無かった。
そのことが少しショックで、つい声が漏れた。
「さて、話はこれで終わりだけど、なんか質問はあるかい?」
宇都宮さんはそう聞いてくる。
心の中にあるわだかまりは一旦無視して、俺は一つ気になったことを思い出して聞いた。
「あの、昔の生徒会に、会長…高坂椿はいましたか?」
「あぁ、、あのちびっ子。いたね。たしか副会長だったかな」
ということは、例の事件で会長は辻恋一郎を襲ったのだ。
実際考えたくないことだが、そうすれば、あの生徒会室での会長の動揺もうなずける。
《狼》でありながら、そのルールに反することをしてしまったこと。それが会長のあの反応につながるのだ。
忘れてしまいたい、忌まわしい過去だからだ。
「分かりました。ありがとうございます。宇都宮さん」
俺は礼を言って、屋上を立ち去ろうとする。
空も微妙に暗くなってきていたし、結構な時間話していたのだろう。
そういうことで最初に入ってきた鉄製のボロいドアに俺は手をかけて、開けようとすると
「ちょっと待って、中道君。言い忘れたことがある」
と、宇都宮さんに引き止められた。なんだろう。
「なんですか、宇都宮さん」
「うん。中道君」
「?」
彼女は神妙な顔で俺を見る。
まさか、出会っていきなり一目惚れ!?
確かに、ここ屋上で告白スポットだけど!いきなりはちょっと!
「あのね」
ドキドキ。書かなかったけど、宇都宮さんも結構美人だから、、、、、。
でも俺が好きじゃないなら、断るべきだよね。
相手にも失礼だもんな。よし、お友達からよろしくお願いします、だ。
さぁ、こい!準備万端だぞ俺は!
彼女の口が動き始める。きゃー!告白されるなんて初めて…
「私のことは栃木ちゃんと呼びなさい」
「ってループかよおおおおおおお!!!!」
雲が少ない春の空に、俺の絶叫がこだました。