俺は、今日も例の購買にいた。

購買は今日も圧倒的な熱気を放つ程人で溢れかえっていて、外から見ているだけの俺もその熱気に当てられて興奮してしまうほどだった。

床には何人もの生徒が倒れていて、それがここの熾烈さを物語っていた。

「………!」

昨日はよく見なかったが、、、確かに、ここで闘ってる連中はまさしく狼。この戦場では誰もが敵なのだ。

さらによく見ると二年が三年生を殴っていたり、二年生と三年生が手を組み、教師を吹き飛ばしたり。

年の差など関係ないのだ。皆本能のままに闘っている。

なるほど、この争奪戦にドハマリする人間が出てきてもおかしくないだろう。

そう思えてしまうほどに、清々しく気持ちいい場所だった。

結局見入った俺は、その後会長に散々魅力とやらを語られて、皆とは違う理由で疲れた。




「やけに椿が嬉しそうだけど、何かあったのかい?」

放課後の生徒会室で紗織先輩がコソっと話しかけてくる。確かに今日の会長は俺から見て分かるほどに、嬉しそうだった。

あと、先輩の顔が近くて、俺興奮しちゃう。

「多分、俺が争奪戦に参加することを決めたからじゃないですかね」

興奮を精一杯抑えて、俺は言う。

「へぇ、恭一君もやるのか」

彼女は意外そうな顔で、そう言ってきた。

「意外ですか?」

「うん、あまり君は好戦的じゃないと思ってたからね」

「でも、先輩も《狼》だったんでしょう?」

「ん…まぁ、そうだね」

「それと同じですよ。熱気に当てられたんです」

それで先輩との会話を終わらせる。これ以上先輩の近くで話していたら、俺死んじゃう。

と、まぁ、俺のおふざけっぽい本音は置いといて、争奪戦に参加することを決めたのにはもう一つ理由があった。というかこちらが本筋の理由なのだが。

そう、辻恋という《狼》の事だ。単なる好奇心ではあるが、どうしても気になってしまう。

辻恋一から聞いた話では今年卒業したらしいが、それならあの戦場にいる《狼》なら知っていると思ったからだ。「とりあえず、、、明日だな」

俺は誰にも聞かれない程度の声でそう呟いた。




その日の四限、俺と九重は会長に呼び出された。四限はあの適当先生なので、補修もなし。

そういうことで生徒会室への道を意気揚々と歩いていた俺は、途中で九重と会う。

「お、九重」

「あ、中道さん。こんにちわ」

彼女は軽く会釈をしてくれる。

俺も会釈し返してから、隣に並ぶ。誰もいない、けれど寂しくなく落ち着いた感じの廊下を二人で歩くのが、何となく青春してるみたいで、心地よかった。

そんな気分に浸りながら、適当な世間話をしていたらあっという間に生徒会室の前に着いてしまい、青春気分の余韻を感じながら生徒会室に入る。

「おぅ、よく来たな」

生徒会室の中には、偉そうにしている子供が一人。うん微笑ましい。

このまま、近づいてきて「お兄ちゃん」とか言われながら抱きつかれたらなんと幸せなことか。

と、椅子から立ち上がって、こっちに来てる!?まさか本当に、抱きつかれ…

「って痛あああぁぁぁあああ!!!」

…なかった。抱きつかれるというより鳩尾にタックルを食らった。

「会長、、、理不尽な暴力は、、、いけない」

「お前全部口にだしてたからな」

会長は不機嫌そうな顔でそう言って、ってえええええ!?

あんな妄想が垂れ流しだっただなんて…。

俺はそうっと九重の方を見る。

「いえ、あのー、、、引いてないですから」

視線に気づいた九重はそう言う。。。が

「じゃあなんでそんなに離れているわけ…?」

彼女との距離が3メートルになっていた。三メートルあれば一円玉が三百枚置けるぞ。

「いや、離れてませんよ。これが適切な距離です」

「そんな!俺をゴキブリみたいに!」

「……」

「否定してよ!君と知り合って二日目だよ、まだ!」

「ほらほら、Gと咲。座れ」

「Gってなんだぁぁぁああ!」

高校デビューという言葉があるが、俺はゴキブリデビューしました。

こうなったら這い寄ってやる。ゴキブリのように。ぐへへ




殴られた。グーで。這い寄ったら、思い切り殴られた。いや、まぁ分かってたけどね。こうなること。

「で、今日の争奪戦だが」

三人がそれぞれの席に座ってから会長が話し始める。

「中道恭一のデビュー戦だな」

「会長、私は昨日が初めての争奪戦でした」

「お前はなんも言わなくても大丈夫だったろ」

「そうですけど…」

「で、話を戻すが」

パンパンと手を叩き、会長は俺を見る。

「私から言える事は一つ」

「-




昼休み、授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。と、同時に教室という名の檻から獣達が開放される。

ものの一分とかからず、購買には飢えた狼達が集まる。

殴り合う音、駆け抜ける音、奇声、怒声。その全てが彼を興奮させた。自然とテンションが上がって、アドレナリンが放出される。

一度だけ深呼吸をし、目を開く。

重心を限界まで低くして、地面に倒れ込むように、発射する。

人ごみを掻き分け、それでも通れないときは強引に殴り飛ばす。

激しい戦闘の中、彼は獰猛な笑みを浮かべて同じ戦場にいる紅い鬼を見る。

その視線を感じ取った鬼も、彼と同じように笑って叫んだ。

「-全力で、潰せ!!!!」

「了解っす、会長!!」

こうして彼-中道恭一のデビュー戦が始まった。