「これ、分かる奴」
生物の先生の声が教室に響く。この先生はあんまり声が大きい方ではないのだが、教室の隅の方まで響いていた。
まぁ当たり前だ。
一人で補修中なんだから。
「ほら、中道答えなさい」
「無理じゃないですかね、うん」
「いや答えろよ。お前しか居ないんだよ」
「それは分かってます。でも無理なものは無理なんです」
「はぁ…なんで補修なのかな。いっそ無しにしてくれりゃあいいのに」
「無しにしましょうよ」
「あぁー。じゃこれで終わり」
「まじっすか!?」
「中道、俺のモットーを教えてやる。無意味なことはしない、だ」
「あんた仕事だろ!!」
「はっきり言って、てめえと二人、さらには金も出ない仕事なんて、消せない消しゴムより意味ない」
「そこまでかよ!!」
「ほら出てきな、馬鹿」
「馬鹿言うな!!」
「でてけでてけ」
先生もとい給料泥棒は俺の背中を押して無理やりに教室から出す。「おら、てめえは生徒会に行け」
非常に雑な教師である。
しかし、逆らっても良いこともないので、俺は生徒会室に向かう。
余談だが、高一の教室と生徒会室は、校舎移動をしなければ行くことが出来ない。
「本当、遠いよなぁ」
俺はブツブツと文句を言いながら、トボトボと歩く。
そして数分かけて、生徒会室についた。割ときつかった。
早く座りたかったので、生徒会室のドアを開けようとドアノブに手をかけると
「ガチャっっ!!」
扉が跳ね返ってきた。ついでに俺の頭にジャスドゥーイット!!
「っ痛!!なんだぁ…?」
頭をさすりながら、俺は生徒会室から出てきた人をみる。
そこには、ちびっ子生徒会長が。
「あ」
「あ」
お互い、見つめ合う。ロマンティックとか少女漫画系じゃなくて、どちらが先に動くか的な意味で。
その意味では、先に動いたのは椿だった。
ガシッと捕まれ、生徒会室に放り込まれる。抵抗したのに全く効かなかった。これでも男なのに…。
部屋の中には、俺と会長しかおらず、「美少女と二人きり」という誰でも一度は妄想したことがあるシチュエーションになっていた。
がちゃっ、という音も聞こえたので鍵も閉めたようだ。やばい、このシチュエーションはやばい。
「会長、ラノベで18禁指定になりそうなのはちょっと」
「嬉しくないのか?」
そんなことを聞いてくる会長。これは本当にやばい。
「そりゃもちろん全然嬉しくないです」
しかし俺は全く興奮しなかった。幼児体型が気に入らなかったわけではない。この発言犯罪チックだなぁ。
「そう言われるのは傷つくな。これでも私は女の子だぞ?」
会長は紅い顔でそんなことを言う。
「知ってますよ。…ただ」
それに反比例して俺は青ざめていく。
「ただ?」
だって
「18禁ってグロ方面じゃないですかぁぁぁぁああああ」
彼女、ナイフもってるんだけど!完璧にヤバイ人だよ!
「お前が逃げるから、襲う形になったんだ。ぽっ」
「なに顔赤らめてんだ!襲うって、殺人じゃねーか!」
「そんなこと言わせないでよ、もう」
「何が、もう、だよ!知り合って二日目の奴に殺されるとかひどすぎるだろ!」
「あー、もう、うるさいな。男なら黙って、受け入れなよ」
「ナイフを!?死ぬから!受け入れたら、強制的に黙っちゃうから!」
「うるさいっつーの!」
彼女は恭一に向かってナイフを投げる。
「ぬわ!ちょっ!落ち着けって!落ち着いてください!」
恭一の必死の呼び掛けも虚しく、彼女はどこからか無尽蔵にナイフを投げてくる。
生徒会室という狭い部屋の中で、ナイフをよけ続けるなんて、、、、みんなも美少女と二人きりになったら気を付けて。家庭科の後ならより気を付けて。
「中道恭一!死を持って償え!!!」
「なんで!?ちょ、だれかぁぁぁああ」
結局、ほかの生徒会メンバーが来るまで、その地獄の追いかけっこは終わらなかった。
「明日の昼飯争奪戦は、私、咲、そして中道恭一で行こうと思う」
全員椅子に座ってから、椿は言った。
ちなみに役職ごとに定位置があるようで、一番窓側が会長、そこから見て右に副会長、庶務。左方向に会計、書記の順番だ。
「九重君は良いとして、恭一君も連れていくのかい?」
「あぁ。こいつは途中で帰りやがったからな。あそこの魅力を教えてやる。…というか紗織も復帰すればいいのに」
「いや、私は…ね」
「あの、藤咲先輩も《狼》だったんですか?」
二人のやり取りに、九重が混ざる。
「あぁ。。まぁ、昔の話だよ。《狼》と呼ばれるほど戦った記憶もないんだけどね」
「なんで辞めちゃったんですか?」
「ん…まぁ、、、、うん」
言葉を濁す彼女の顔はどことなく寂しげで、九重もそれ以上は追求しなかった。
「ん。じゃあ、明日はその面子だからよろしく」
会長がそう言って話を終わらせようとする。
と、そこで俺は辻恋から聞いた話を思い出す。
「あ、会長。あの辻恋って人知ってますか?」
俺がそう聞くと-いや、辻恋という名前を出した途端、室内の空気が張り詰めた。
「中道恭一。その名前…誰から聞いたんだ」
「え…いや、、同学年の奴にそいつの弟が居まして」
会長はバツが悪そうに眉を寄せて、「なんでもない。辻恋なんていう奴は知らない」と答えて、口を閉じた。
話したくない、てわけかぁ。
そのまま、適当に話した後、今日の生徒会は解散となった。
ただ、俺の頭の中は辻恋という男子生徒で埋まっていた。
BL的な意味じゃなくてね。