「先輩の命令を、無視して帰ろうとするとは何事だ」
生徒会長こと椿がニヤニヤしながら言ってくる。多分怒ってるわけじゃなく、それにかこつけて、どんな制裁をしようか考えているのだろう。
「いやぁ……あの。それについては申し訳ないというか…、まぁ非はこちらにあるのですが…」
頬を掻きながら、俺はバツが悪そうに答える。なんというか購買があんなに荒れるなんて思っていなかったのだ。しかし、人が飛んでくるなど誰が想像するだろうか。
「ほうほう。自分の非を認めるその姿勢は良いぞ」
「ですよねぇ!!いいですよねぇ!!本当後輩の鑑ですよね」
ここぞとばかりに畳み掛ける。これ以上の重傷は勘弁してほしかった。
だが
「その姿勢はみ、と、め、る、が!!帰ろうとしたという事実は、消えないよなぁ?」
制裁は免れないようだった。いやまぁ、分かっていたけどね。
「じゃあ、いきましょうか?罰ゲーム」
その後昼休み中ずっと、捕まったら終わりの鬼ごっこをして、体力つきた俺は机に突っ伏していた。
「中道、俺は授業から五分たってないのに寝る奴は初めて見た」
バシン、と出席簿で頭を叩かれる。あれって地味な音のくせに、驚くほど痛いんだよなぁ。
「先生、生徒会長に追われたんです。死にます」
「おいおい。生徒会長に追われたい奴なんてごまんといるぞ」
「そいつらは追わせればいいと思います」
「馬鹿やろう。それが出来ないから生徒会長という存在なんだ」
「知りませんよ」
先生が何やら熱く語り始める。もちろん生徒会長についてだ。同じ学校の、さらには生徒のことをこんなに語れるなんて、一回この教師休ませたほうがいい。
そんなこんなでその授業も終わった。生徒会副会長にはあの先生がなるべきだと思う。本当に。
「ふぅー。やっと会長話から開放される」
ぐー、と伸びをして椅子に深く座る。
そのまま、しばらくボー、と天井を眺めていると、にゅっと入り込む影。逆光で顔は見えない。
「お疲れみたいじゃん、中道」
俺はその声の主に振り返り、どうにかして名前を思い出そうとする。
「えーと辻恋一(つじこいはじめ)だっけ?」
「お、覚えててくれたか。辻恋でいいぜ」
「あぁ、じゃあ辻恋。何か用か?」
「いや、別に。ただ生徒会副会長と話したかったのさ」
言葉だけ聞くと嫌味ったらしいが、不思議とこいつが言うとなんにも感じなかった。
この辻恋という少年は、そのあとも饒舌に話し、感じのいい人間で、最初にちゃんと話せたのがこいつでよかった。
ただ、話の最後に、真剣な面持ちでこんなことを言った。
「中道、お前が購買にいるのを見たが、、、、、やる気なのか?」
辻恋が言っている「やる気」とは、おそらくあの昼飯争奪戦のことだろう。
正直あまり乗り気では無いのだが、いかんせん、生徒会のしごとなんだよなぁ。
俺がそんなことをモヤモヤと考えていると、その沈黙をなんと受け取ったのか、彼はこう口にした。
「あそこはお前が思っているほど、甘くはないぞ?やる気が無いのならやめるべきだ」
「…よく知ってるかんじの口調だな。何かあったのか」
今日吹き飛ばされたのだろうか?
「いや、俺の兄貴がここの卒業生でな。《狼》だったんだ」
《狼》とは、まぁ、これの3かベン・トーを読んでもらいたい。
「それがどうかしたのか?」
「あぁ。この話は微妙に長いんだが、いいか?」
「大丈夫。続けて」
毎日のように吹き飛ばされていました、終わり。とか、そんなかんじでは無さそうだ。
逆に、彼からは怒りさえ感じられた。
「兄貴はいつも傷だらけで、、でも楽しそうに毎日過ごしてた」
「兄貴は強くて、いつも龍虎をとってたらしいんだ」
「俺は、そんな兄貴が好きだった。いつも楽しそうに話してくる兄貴が」
「なんでも話してくれたよ。共闘したこと、ライバルが出来たこと、なんでも。なんでもだ」
「なのに、兄貴はぱったりと話すのをやめた」
「理由を聞いたが話してくれない。いつも楽しそうに語ってくれる兄貴が、そんときはずっと黙ってたんだ」
「ただ、相当の挫折を味わったのは確かだ」
「あの場は、人を変えちまうくらい、危ないところなんだ」
「だから中道。やるにしても気をつけろ。何があるかなんて、分からないんだからな」
そう言って辻恋は俺から離れていった。
ただ
「……なにがあったんだ…?」
辻恋と俺のこの話が、俺の初仕事に大きく関わるとは露知らず、俺はこの物語に首を突っ込んだのだ。
ベン・トー編始まり