列車の中は俺を含めた4人となっていた。
重くなった腰を、ゆっくりと持ち上げ、俺はやっと立ち上がった。



「僕のこと?」
俺は適当に、ドアに寄っかかるように突っ立っていた学生(であろう)に声をかけた。
「僕か…。それは、名前という意味かい?」
「違う。生前の自分のことさ。…あと出来れば死に方を」
俺がそう答えると、学生は驚いたように目を見開いた。
「死に方を聞くなんて…、なかなか面白い奴だな」
学生は笑いながら言う。だが記憶がない以上、俺にとっては大事なことだった。それは座っていた席を立つくらいには。
「話したくないのか?どうせここで終わるのに」
聞く。大事なことなのだ。
「実際、もう終わっているのだがな」
学生は苦笑いを浮かべる。
そこで、俺は少し違和感を感じる。
「お前、死んだことが悲しくはないのか?」
死ぬことを知らない俺は、つい言ってしまう。死に対し無知な俺は。ここでしか生きれない俺は。
「あぁ…?あぁ、記憶無いんだっけ」
学生は得心がいったように軽くうなずく。
そんな動作でさえ様になる人間だった。
「僕の死に方、ね。うん、どうせ最後なら、教えてあげよう」
学生は少しだけ口角をあげた、微笑を浮かべながら言った。



「そうだね。まずは、僕自身の事を話そう」
「いや、名前とかそういうことじゃあない。大丈夫、安心してくれ」
「じゃあ始めるぞ」
「コホン。僕は、見た目通り学生。そこに異論はないだろ?」
「本当にただの学生。普通の、とは付けにくいかもしれないけどね」
「少し僕は他の人とは違っててさ」
「あぁ…。今のは中二病とかそういうのじゃなくてさ」
「客観的に見て、だよ。死んでみて、すこし落ち着いて見た結果だ」
「閑話休題」
「それで僕はね。なんというか、戦い…喧嘩みたいなものが好きでね」
「一年間の三分の二以上喧嘩のようなものをしていた記憶があるね」
「あぁ、喧嘩のようなものって言ってるのは、こっちには恨みとかがないからだよ」
「そこはどうでもいいだろう?」
「話を戻して、僕のことだ」
「僕は殴り合う中の、あの緊張感、スリル、感触。全てに興奮した」
「それは、僕自身の性質であり、変えられない事実だ」
「でも僕は強くなっちゃったんだ」
「そりゃあ、毎日のように喧嘩しているんだ。強くなるのは当然の帰結だよな」
「どのくらい強くなったか?そうだな、一回町の総締めを頼まれたくらいだな」
「それを断って。。。。。で」

「まぁ、ここでやっと僕は死んでしまうわけなんだけれど」

「そうだなぁ。。。確か隣町に相手を探しに行ってた時かな」

「その帰り道。僕は後ろから刺されたんだ、グサッと」

「全く気配を感じなかったし、刺されたときはビックリしたね」

「あははは。刺された感想は本当にそれだけさ」

「そこから先のやり合いは、、、、そっれはそれはゾクゾクしたね」

「背中から感じる生温い血と、激しい痛み。そして、久々にあう強い奴」

「その全てが脳内から果てしない快楽を生み出したんだ」

「僕の最後で最期の殺り合い。それが皮肉にも生きる意味、快楽を教えてくれたんだ」

「今思い出すだけで鳥肌が立つ。あれを超える快楽はもう味わえない」

「死んだことで悲しいことはそれくらいかな」




「次は修羅道、修羅道。お降りの方はお荷物お忘れ物ございませんようご注意ください」

「あぁ、僕はここで降りよう。記憶は戻ったかい?」

学生は話を終えると、ため息を一つ零して、俺に聞いてくる。

「いや、なんにも。話をしてくれてありがとう」

「どういたしまして」

学生は小さく微笑むと、わざとらしく音をたてるドアの向こう側に降りた。

ただ最後に俺は、学生に話しかけていた。

「ただ、お前」

「ん?」

「人を---」

ピロロロロロロロロ!!!!

電車の出発音が、俺の言葉を飲み込む。

「え?なに?」

学生が聞き返してくる。

しかし俺は答えなかった。

答えられなかった。

だって俺が

「プシューーガタン」

電車のドアが閉まる。

ヒンヤリとしたそれに俺は頭を預けて、文字通り頭を冷やす。

そんなことをするほどに、俺は驚いていた。

それは言葉。自分自身の言葉。

俺が学生に向かって吐いた言葉。

「…………殺さなくても、、、、いいのか……!?」

電車の中はもう三人。

三人しかいないのだ。