一人降りたことで、その列車の中は五人となった。
話が変わるが、列車というものは誰かしらの会話が自然と耳に入ってくるものだとは思わないだろうか?あなたも経験があるはずだ。
さっきの俺と、彼女の会話を聞いてか、一人の少年が俺の隣に座ってきた。
「面白い会話だったじゃん」
少年は言う。
「あの女、考え方が人間じゃない。阿呆かと思っちまった。…少し、羨ましかったけどさ」
少年はペラペラと語る。そんなに俺と話したいのか、こいつは
「お前は…、俺と話したいのか?」
「ん?……あぁ、まぁ、そうなるかな」

「どうして?」

つい俺は聞いてしまう。

俺には分からなかった。

見知らぬ人間と喋る事に、この少年は何かを見出しているのだ。

何を見出してるんだろう。

「えーと?なんか、この電車の中、気まずいじゃない?だから、話せそうな奴にっていうか」

「…つまり?」

「うーん。あの、あれ、んー。この電車の中で話す相手が見つかって、安心したっていうか」

俺はさらに理解できなかった。

人間とまともに話すことが出来る人間がいるだけで、この少年は安堵感を得られると言うのだ。

たったそれだけのことで彼は快感を得られる。

なんと簡単で能天気、且つ、羨ましい精神を持っているのだ。

「あ、、なんか俺まずいこと言った?」

俺が黙ったことを、怒ったのかと勘違いしたのか、少年は様子を見ながら問うてくる。

「いや、なんでもない」

「そう?ならいいけど」

「あぁ、大丈夫だ」

まぁ、さっきから一回も顔をあげてないので、大丈夫には見えないのだが、それはそれだ。

「そいやぁ、あんた記憶がないんじゃん?」

やっぱり、さっきの会話が聞こえていたのか。別に困ることはないのだが、自分の会話が他人に聞かれているというのは余り気持ちのいいことではない。

「あぁ、自分がどう死んだのかなんて知らん」

「へぇ、、あ、俺は、一人で塾から帰ってたら、後ろから刺されて死んだから」

少年は、聞いてもいないのに自分の死に様を言ってくる。

そこまでして間を持たせるのはやっぱり、会話によって一定の快感を得るからだろう。

やはり変な奴だ。

「塾の講師が俺のことを嫌味ったらしく怒ってさぁ。死んじまえ、って思いながら帰ってたら、自分が死んじまったわけよ」

少年は、笑う。しかし、俺が黙している為か、笑いをやめた。

それどころか、彼は俺が放った言葉に凍りついた。


「死ねって思ったんなら、コロセバヨカッタンダ」




「だってそうだろう?どうせ、死ぬんだ。だったら、後悔を少しでも残さぬよう、殺してしまえばよかったんだ」

「な、なに言ってんだよ?あんた」

「自分が憎いと思った相手を殺せばいい。素直に、従順に、解き放つんだ。そうすればお前は、気が済むんだろう?」

「いや、殺しちゃダメだろ…!?」

「なぜそう思う?」

「え…、普通に考えてダメだろ?法律で決まってるし…」

「でも、現にお前は死んでるし、その法律の範囲外。いや、お前が知ってる普通とは別の世界にいるんだ」

「…そりゃそうだけど」

「だったらその時、一人くらい殺したって」

「よくねぇだろ!!何言ってんだよお前!」

「だって、死ねって思ったのはお前じゃないか」

「そんな一時の感情に流されて、お前は人を殺せんのかよ!?」

「今の俺は、生きた記憶がないから分からないが、、、殺せないのか?」

「っ!当たり前だろ…?」

少年の声色で分かる。

彼は動揺しているのだ。

死ねと思ったから殺す。腹がすいたから飯を食べる、とさして変わらないことだと思うのだが。

おかしな人間。

先程からなんども繰り返される、変な奴、でお絵ある問答。

しかしここで一つの疑問が俺の中に沸き起こった。

「さっきからどうしたんだよ、お前…?」

「どうかしてるのは、」

「あんただよ!平気で人を殺せるなんて、おかしいだろ!」

「俺…?」

もしかしたら、少年が普通で、俺がおかしいのかもしれないと。




「まもなく人間道、人間道。お降りの方はお荷物、お忘れ物ございませんよう、ご注意してください」

車内アナウンスがかかり、少年は立ち上がる。

「はぁはぁ…。じゃ、じゃあ俺はここで降りるから」

「…あぁ」

俺は、もう少年のことがどうでもよくなっていた。

ただ、自分がおかしいかどうか、それだけが気になった。

「プシュー」

列車のドアがわざとらしく音を立てて閉まる。

その音で、俺は集中がとける。

列車内には少年の姿はなく、あと四人となっていた。

「俺は知りたい」

自分が異常なのか、正常なのか。

俺がどんな人間なのか。

そのためには、ここにいる他の四人に話を聞かなければいけない。

それで記憶がもどれば、自分がどんな人間なのかが分かる。

じぶんが何を考え生きていたのか。

自分は人を殺せるのか。

これが、この列車の中で生まれた【俺】の生きる意味。

【俺】はやっと、床を見つめていた顔を、上に上げた。