山中高等学校。
その学校が彼、中道恭一が四月から通うことになる学校だった。
恭一は黒髪で短めの髪。そこ以外説明のしようがないほどに普通の外見で、山中高等学校の制服も普通に着こなしていた。
何故彼が制服を着ているかというと、少し前に四月から通うと書いたのだが、今現在がもう既に四月だからだ。
新しい環境ということによる緊張により、強張った体を彼は必死に動かし、自らの教室に向かう。実際、入学式とかもあったのだが校長の話が一時間かかった入学式の9割を占めたため、割愛させてもらおう。
「んじゃ適当に自己紹介でもしろ。順とかは自分らで決めろ」
どうやらこのクラスを受け持つ先生らしいが…随分と適当だが大丈夫なのだろうか?皆それぞれ初対面の相手ばかりのためそんなことを言われても、誰も動かないだろ。と、恭一は密かに教師の適当さを呪うが
「じゃあ、はい!あたし!あたしからやるよ!」
全然そんな事無かった。むしろ逆だった。絶対こいつ自己紹介やりたがってた。そんな事が例え、どんなラブコメの主人公の鈍さでも察せられる程の異様なテンションで立ち上がったのは、ドア側の列の一番前の女の子だった。
全体的に見て短めの髪で、後ろで小さく髪をまとめている。背は小さく、なんというか体からあたし風邪ひいたことないですよ。無茶苦茶健康ですよオーラがにじみ出ている子だった。
「あたしは春田忍!好きなものは色々!嫌いなものも色々!住んでるとこはジ・アース!」
そんな名前負けな女の子に
「今の自己紹介じゃ、名前しかわかんねえよ」
と恭一はボソッとツッコミをいれる。しかし、それが隣の人間に聞かれたようで、クスクスと笑われ、なんとなく恥ずかしくなり、恭一は顔を伏せた。
「…で、最後に」
と、恭一がツッコミを入れてる間に自己紹介は進み一人目が無事終わろうとしていた。だが
「特殊体質は、《体温》だよ!」
その一言を聞くなり、恭一は目を細めた。
「特殊…体質」
彼がこれに散々苦しめられてきたからである。
特殊体質。それは近年発生しはじめた、文字通り、特殊な体質の事である。今の春田忍の《体温》はつまり体温に関する体質。例えば、自分の体の温度を自由に操れるなど。
そして特殊体質が発現する可能性は99.999%。100000人中99999人はどんな微弱なものでも特殊体質が発現するのだ。また、彼を苦しめる原因はそこにあった。そんなことを考えていると
「おい!次お前だろ」
と、後ろの席から声がかかる。
「…え?何が?」
しかしボーっと考え事をしていた恭一は、今なにが起こっているか理解ができず、そんな間の抜けた返答をしてしまう。すると、声をかけてきたそいつはキョトンとした顔になり
「何がって、春田から始まって順番にやることだったろ。お前の前の奴、もう終わったぜ?」
訝しむようにそう言った。
「ん?あっ…ごめん!」
と、ここで彼も気付き、小走りで教壇に向かう。教壇に上がると、ちゃんと恭一を見て自己紹介を聞こうとする者もあれば、退屈そうに指遊びする者もいて、それがよく分かった。思わず恭一は「なるほど。これで居眠りしてる生徒を見つけられる訳か…」とボソリとつぶやき、感心してしまうが、自分のせいで時間が押してるのを思い出し、恭一は慌てて自己紹介を始めた。
「えーと。僕の名前は中道恭一」
「好きなのは女の子。好きじゃないのはあまりにモテない俺の顔」
クスッと笑い声がどこかから漏れたが、元々ウケ狙いで言ったため恭一はさっきのように恥じることはなかった。
「んで…特殊体質なんすけど…」
特殊体質が恭一を苦しめる理由。それは
「特殊体質…ないんですよね。俺」
恭一自身が実に稀少な、何もない一般人だからだった。
●
「うーし、じゃ、解散。…あっ。あと、ちなみに今日からでもクラブ入部はできっからなー」
そういって、結局名乗りじまいだった1-B担任は始まり同様適当に挨拶をすませ、勝手に出て行った。本当に大丈夫なのか?あいつが教師で。
「ってそんなこと考えてる場合じゃねえ」
他のクラスメートが、始めましてー的なノリで談笑を始める中、恭一は急いで支度を済ませ走るように教室をでようとした。が
「中道君!特殊体質ないって本当?忍に見してよ!」
「中道!ほんとかよ!特殊体質ねえの」
「中道君…」「中道君…」
間に合わなかった。しかも忍達に引っ張られ談笑し始めていたクラスメートも忍の元に集まり始めた。そう、恭一はこれが嫌で早く帰りたかったのだ。
「ごめんみんな。今日ちょっと急いでるから」
「いいじゃん!ちょっと保健室で調べるだけだよ」
「いや、だから、急ぎの用が…」
「いいじゃん!」
恭一の声を遮って、半ば脅しのように詰め寄る忍。また、その他大勢も好奇心100%のキラキラした目を近づけてくる。
「う、く」
そんな中恭一は
「ほんと!いそいでるからぁぁぁぁああ!」逃げた。
「おい、逃げんな!」
クラスメートも慌てて追い始める。しかし
「つーか」
「あいつ!足速すぎんだろ!」
無我夢中に走る恭一とクラスメートの差は開くばかりで一向に縮まる様子がなかった。恭一が渡り廊下を走り、西校舎に入った頃にはクラスメートとの差は、渡り廊下一つ分離れていた。
恭一はチャンスとばかりに階段を降りてすぐのトイレに入り、一番奥の個室に逃げ込む。すると、数秒遅れでトイレ前の廊下にドタドタと足音が響く。
「くそ、どこいった!」
「みんな、分かれて捜そうよ。特殊体質がないんだったらまだ学校内にいるはず」
そんな恭一にとっては物騒な作戦がトイレの外側から聞こえ、恭一は息を殺した。
数秒後、またドタドタと複数の方向へ散らばる足音を聞き、恭一が安堵した瞬間
「とりあえず男子トイレだな」
そんな一言と共にバンと勢いよくトイレの扉が開き何者かが男子トイレに入ってきた。恭一は慌てて動きを止め、再び息を殺す。
すると
「でてこいや!中道!」
と大きい声と
「太田くん。やめようよ。他の人がいたら僕達おかしい人だよぉ。とりあえず僕は確実にアウトだよぅ」
という気の弱そうな小さい声が聞こえてくる。
「うるせえ!倉島ぁ、俺たちゃ高校生なんだ。子供じゃねえ!」
と、よく分からない反論をする太田に対して恭一はツッコミを入れそうになるが自制する。そんな恭一の心が伝わったのか倉島が口を開いた。
「大人でおかしい人だったら」
「なんだよ!」
「変態だよ?」
「なん…だと!?」
そんなツッコミ?というか遠まわしに変態呼ばわりするという罵倒に対し、ハイテンション過ぎる太田は、見ずとも分かるくらい衝撃をうけたようで
「太田君?大丈夫?」
「いや、いいんだ…。俺は…変態なんだ」
ネガティブになった。面倒臭い奴だな!!、とツッコミを入れかけるが、これまたギリギリのところで呑み込む。
「あのぅ?太田君?別に太田君を変態って言ったわけじゃ」
「あぁ、この前、木に引っかかった風船をとってあけだあの女の子だって、俺のことロリコンだって思ってるんだ…」
「そ、そんなことないって。別に言われたわけじゃないんでしょ?」
隣にいた倉島が彼の悲観ぶりを心配し、慰め始めたが
「言われたんだ」
「っ!?」
予想外の返しに彼女も衝撃をうける。
「い、言われたの?」
「ああ」
「その女の子に?」
ゴクリと恭一はツバを呑み込む。この話は自分にも深く関わっているのだ(先日、泣きじゃくっていた少女を飴やらなにやらで必死に諫めたため)
「いや…アネキに」
「アネキかよっっっ!!」
バンっ!とドアが壊れるんじゃないか、というくらいの勢いで恭一はトイレの個室を飛び出していた。もちろんツッコミをいれるために。
あぁ、ツッコミって気持ちいい!!と感じたのも一瞬、彼は即座に状況に気づき、生まれつきのツッコミ性を果てしなく恨んだが、もう遅い。
「中道君!?」
「ぅあ………倉島千恵さん、だっけ?」
「あ、うん」
「女の子だったんだ?」
沈黙。後
「中道君を見つけましたぁぁぁあ!!!!!」
彼女の口からまるで拡声器を使ったような馬鹿でかい声が発せられた。
「特殊体質かよっ…!?」
恭一はキーンと痛む耳を我慢して堪え、トイレ上部にある都合よく開けっ放しになってい窓に向かって少し飛んで、縁を掴み鉄棒のように体を持ち上げる。
そして、縁を掴む両腕の間に右足を置き、窓から頭をだし、その後、縁を掴んでいた両腕を離し、右足に力を込め、思いっきり外に飛び出した。
その一連の動作をポカーンとした様子で見ていた彼女、倉島千恵は正気に戻り驚愕した。なぜなら
「ここ、二階ですけど…!?」
千恵は慌てて、男子トイレを飛び出して(まず女性の千恵は一番先に飛び出すという行動をすべきなのだが)グラウンドまで制服が乱れるのも気にせず本気で走りだす。途中、千恵の《声》により西校舎二階の男子トイレ集まり始めたクラスメートたちも、呼んだ本人が全力疾走しているため、男子トイレには行かず千恵について行った。
そして千恵がグラウンドに着く頃には、千恵の後ろに微妙な列が出来ていて、恭一は、初対面なのに凄い団結力だなあ、と感心した。で、そんな恭一はというと
「……中道君は、何をしているのですか…?」
「何だろう?僕にも分からないよ」
「猿ですか?あなたは」
「…祖先はそうだね。人間だし」
しがみついていたのだ。トイレのすぐ横にあった太いパルプに。
「中道君…絶対、用事ないよね」
千恵に見抜かれギクリとするが
「あるさ!青春を謳歌するというものが!」(なんだ、この言い訳は!俺のイマジネーションはどうなってんだ!)「今日の用事じゃないですよね」
しかし、一度言ってしまったし、初日から嘘をつくのはどうか。というより自分の失敗を認めたくないため、恭一は苦しい言い訳を続ける。
「いや、ほら、先生が言ってただろ。クラブの入部」「今日中に入部ですか?明日じゃ…あ。あれにはいるんですか。確かにあれは今日中に入部しないともう入れませんし」
だが、神は恭一を見捨てなかったようで、恭一もそれに食い付いた。
「そうそう!それだよ!そこに行かないと!」
「だって、中道君……特殊体質無いんでしょ?」
「え…いや、それが?関係あんの」
特殊体質絡みの事になると、恭一も面白くなく、言葉にどことなく棘がある。
「べっ、別に中道君を馬鹿にしたわけじゃなくて!ただ、そこは特殊だから…」
「…どんな?」
と、言い訳の事も忘れ、聞いてしまうが
「え?知らずに入る気だったの?」
と言われ、恭一は自分の立場を思い出した。
「いや、なんか、噂が何個かあるから?知っとこうかな、みたいな」
「うーん?でも、これだけは絶対な事実だし。噂云々の前に、超有名だよ?」
「いいからいいから!」
「う、ん…?」
千恵は訝しむが、気の弱さからか、それ以上、追及はしてこなかった。
「じゃあ、言うよ?」
「おう。なんでも受け入れっぞ。倉島さんでも」
そんな軽口で返したら、千恵についてきた他のクラスメートの一部が、あんなカッコでナンパとか…くくっ、的な失礼な事を言われたが、恭一は気にしない。
「えーと、山中生徒会。活動内容は、依頼の解決」
「依頼?つか生徒会かよ…」
恭一は意味がよく分からず、千恵に聞き返す。もちろん後半部分は誰にも聞こえないように言ったが。
「えー、はい。例えば、落とし物捜索とか」
そこまで聞いて恭一は、なんだよ。そんな事か。特殊体質いらねえだろ、と内心馬鹿にしたが、続かれる言葉によりその考えは叩っ斬られた。
「学校内に侵入した不審者を、例えそれが連続通り魔であっても、学校内から排除すること、とか?」
「…」
「あの、だから、」
「…」
「し、死なないでくださいね?」
こうして恭一は神から見放されたのだ。
その学校が彼、中道恭一が四月から通うことになる学校だった。
恭一は黒髪で短めの髪。そこ以外説明のしようがないほどに普通の外見で、山中高等学校の制服も普通に着こなしていた。
何故彼が制服を着ているかというと、少し前に四月から通うと書いたのだが、今現在がもう既に四月だからだ。
新しい環境ということによる緊張により、強張った体を彼は必死に動かし、自らの教室に向かう。実際、入学式とかもあったのだが校長の話が一時間かかった入学式の9割を占めたため、割愛させてもらおう。
「んじゃ適当に自己紹介でもしろ。順とかは自分らで決めろ」
どうやらこのクラスを受け持つ先生らしいが…随分と適当だが大丈夫なのだろうか?皆それぞれ初対面の相手ばかりのためそんなことを言われても、誰も動かないだろ。と、恭一は密かに教師の適当さを呪うが
「じゃあ、はい!あたし!あたしからやるよ!」
全然そんな事無かった。むしろ逆だった。絶対こいつ自己紹介やりたがってた。そんな事が例え、どんなラブコメの主人公の鈍さでも察せられる程の異様なテンションで立ち上がったのは、ドア側の列の一番前の女の子だった。
全体的に見て短めの髪で、後ろで小さく髪をまとめている。背は小さく、なんというか体からあたし風邪ひいたことないですよ。無茶苦茶健康ですよオーラがにじみ出ている子だった。
「あたしは春田忍!好きなものは色々!嫌いなものも色々!住んでるとこはジ・アース!」
そんな名前負けな女の子に
「今の自己紹介じゃ、名前しかわかんねえよ」
と恭一はボソッとツッコミをいれる。しかし、それが隣の人間に聞かれたようで、クスクスと笑われ、なんとなく恥ずかしくなり、恭一は顔を伏せた。
「…で、最後に」
と、恭一がツッコミを入れてる間に自己紹介は進み一人目が無事終わろうとしていた。だが
「特殊体質は、《体温》だよ!」
その一言を聞くなり、恭一は目を細めた。
「特殊…体質」
彼がこれに散々苦しめられてきたからである。
特殊体質。それは近年発生しはじめた、文字通り、特殊な体質の事である。今の春田忍の《体温》はつまり体温に関する体質。例えば、自分の体の温度を自由に操れるなど。
そして特殊体質が発現する可能性は99.999%。100000人中99999人はどんな微弱なものでも特殊体質が発現するのだ。また、彼を苦しめる原因はそこにあった。そんなことを考えていると
「おい!次お前だろ」
と、後ろの席から声がかかる。
「…え?何が?」
しかしボーっと考え事をしていた恭一は、今なにが起こっているか理解ができず、そんな間の抜けた返答をしてしまう。すると、声をかけてきたそいつはキョトンとした顔になり
「何がって、春田から始まって順番にやることだったろ。お前の前の奴、もう終わったぜ?」
訝しむようにそう言った。
「ん?あっ…ごめん!」
と、ここで彼も気付き、小走りで教壇に向かう。教壇に上がると、ちゃんと恭一を見て自己紹介を聞こうとする者もあれば、退屈そうに指遊びする者もいて、それがよく分かった。思わず恭一は「なるほど。これで居眠りしてる生徒を見つけられる訳か…」とボソリとつぶやき、感心してしまうが、自分のせいで時間が押してるのを思い出し、恭一は慌てて自己紹介を始めた。
「えーと。僕の名前は中道恭一」
「好きなのは女の子。好きじゃないのはあまりにモテない俺の顔」
クスッと笑い声がどこかから漏れたが、元々ウケ狙いで言ったため恭一はさっきのように恥じることはなかった。
「んで…特殊体質なんすけど…」
特殊体質が恭一を苦しめる理由。それは
「特殊体質…ないんですよね。俺」
恭一自身が実に稀少な、何もない一般人だからだった。
●
「うーし、じゃ、解散。…あっ。あと、ちなみに今日からでもクラブ入部はできっからなー」
そういって、結局名乗りじまいだった1-B担任は始まり同様適当に挨拶をすませ、勝手に出て行った。本当に大丈夫なのか?あいつが教師で。
「ってそんなこと考えてる場合じゃねえ」
他のクラスメートが、始めましてー的なノリで談笑を始める中、恭一は急いで支度を済ませ走るように教室をでようとした。が
「中道君!特殊体質ないって本当?忍に見してよ!」
「中道!ほんとかよ!特殊体質ねえの」
「中道君…」「中道君…」
間に合わなかった。しかも忍達に引っ張られ談笑し始めていたクラスメートも忍の元に集まり始めた。そう、恭一はこれが嫌で早く帰りたかったのだ。
「ごめんみんな。今日ちょっと急いでるから」
「いいじゃん!ちょっと保健室で調べるだけだよ」
「いや、だから、急ぎの用が…」
「いいじゃん!」
恭一の声を遮って、半ば脅しのように詰め寄る忍。また、その他大勢も好奇心100%のキラキラした目を近づけてくる。
「う、く」
そんな中恭一は
「ほんと!いそいでるからぁぁぁぁああ!」逃げた。
「おい、逃げんな!」
クラスメートも慌てて追い始める。しかし
「つーか」
「あいつ!足速すぎんだろ!」
無我夢中に走る恭一とクラスメートの差は開くばかりで一向に縮まる様子がなかった。恭一が渡り廊下を走り、西校舎に入った頃にはクラスメートとの差は、渡り廊下一つ分離れていた。
恭一はチャンスとばかりに階段を降りてすぐのトイレに入り、一番奥の個室に逃げ込む。すると、数秒遅れでトイレ前の廊下にドタドタと足音が響く。
「くそ、どこいった!」
「みんな、分かれて捜そうよ。特殊体質がないんだったらまだ学校内にいるはず」
そんな恭一にとっては物騒な作戦がトイレの外側から聞こえ、恭一は息を殺した。
数秒後、またドタドタと複数の方向へ散らばる足音を聞き、恭一が安堵した瞬間
「とりあえず男子トイレだな」
そんな一言と共にバンと勢いよくトイレの扉が開き何者かが男子トイレに入ってきた。恭一は慌てて動きを止め、再び息を殺す。
すると
「でてこいや!中道!」
と大きい声と
「太田くん。やめようよ。他の人がいたら僕達おかしい人だよぉ。とりあえず僕は確実にアウトだよぅ」
という気の弱そうな小さい声が聞こえてくる。
「うるせえ!倉島ぁ、俺たちゃ高校生なんだ。子供じゃねえ!」
と、よく分からない反論をする太田に対して恭一はツッコミを入れそうになるが自制する。そんな恭一の心が伝わったのか倉島が口を開いた。
「大人でおかしい人だったら」
「なんだよ!」
「変態だよ?」
「なん…だと!?」
そんなツッコミ?というか遠まわしに変態呼ばわりするという罵倒に対し、ハイテンション過ぎる太田は、見ずとも分かるくらい衝撃をうけたようで
「太田君?大丈夫?」
「いや、いいんだ…。俺は…変態なんだ」
ネガティブになった。面倒臭い奴だな!!、とツッコミを入れかけるが、これまたギリギリのところで呑み込む。
「あのぅ?太田君?別に太田君を変態って言ったわけじゃ」
「あぁ、この前、木に引っかかった風船をとってあけだあの女の子だって、俺のことロリコンだって思ってるんだ…」
「そ、そんなことないって。別に言われたわけじゃないんでしょ?」
隣にいた倉島が彼の悲観ぶりを心配し、慰め始めたが
「言われたんだ」
「っ!?」
予想外の返しに彼女も衝撃をうける。
「い、言われたの?」
「ああ」
「その女の子に?」
ゴクリと恭一はツバを呑み込む。この話は自分にも深く関わっているのだ(先日、泣きじゃくっていた少女を飴やらなにやらで必死に諫めたため)
「いや…アネキに」
「アネキかよっっっ!!」
バンっ!とドアが壊れるんじゃないか、というくらいの勢いで恭一はトイレの個室を飛び出していた。もちろんツッコミをいれるために。
あぁ、ツッコミって気持ちいい!!と感じたのも一瞬、彼は即座に状況に気づき、生まれつきのツッコミ性を果てしなく恨んだが、もう遅い。
「中道君!?」
「ぅあ………倉島千恵さん、だっけ?」
「あ、うん」
「女の子だったんだ?」
沈黙。後
「中道君を見つけましたぁぁぁあ!!!!!」
彼女の口からまるで拡声器を使ったような馬鹿でかい声が発せられた。
「特殊体質かよっ…!?」
恭一はキーンと痛む耳を我慢して堪え、トイレ上部にある都合よく開けっ放しになってい窓に向かって少し飛んで、縁を掴み鉄棒のように体を持ち上げる。
そして、縁を掴む両腕の間に右足を置き、窓から頭をだし、その後、縁を掴んでいた両腕を離し、右足に力を込め、思いっきり外に飛び出した。
その一連の動作をポカーンとした様子で見ていた彼女、倉島千恵は正気に戻り驚愕した。なぜなら
「ここ、二階ですけど…!?」
千恵は慌てて、男子トイレを飛び出して(まず女性の千恵は一番先に飛び出すという行動をすべきなのだが)グラウンドまで制服が乱れるのも気にせず本気で走りだす。途中、千恵の《声》により西校舎二階の男子トイレ集まり始めたクラスメートたちも、呼んだ本人が全力疾走しているため、男子トイレには行かず千恵について行った。
そして千恵がグラウンドに着く頃には、千恵の後ろに微妙な列が出来ていて、恭一は、初対面なのに凄い団結力だなあ、と感心した。で、そんな恭一はというと
「……中道君は、何をしているのですか…?」
「何だろう?僕にも分からないよ」
「猿ですか?あなたは」
「…祖先はそうだね。人間だし」
しがみついていたのだ。トイレのすぐ横にあった太いパルプに。
「中道君…絶対、用事ないよね」
千恵に見抜かれギクリとするが
「あるさ!青春を謳歌するというものが!」(なんだ、この言い訳は!俺のイマジネーションはどうなってんだ!)「今日の用事じゃないですよね」
しかし、一度言ってしまったし、初日から嘘をつくのはどうか。というより自分の失敗を認めたくないため、恭一は苦しい言い訳を続ける。
「いや、ほら、先生が言ってただろ。クラブの入部」「今日中に入部ですか?明日じゃ…あ。あれにはいるんですか。確かにあれは今日中に入部しないともう入れませんし」
だが、神は恭一を見捨てなかったようで、恭一もそれに食い付いた。
「そうそう!それだよ!そこに行かないと!」
「だって、中道君……特殊体質無いんでしょ?」
「え…いや、それが?関係あんの」
特殊体質絡みの事になると、恭一も面白くなく、言葉にどことなく棘がある。
「べっ、別に中道君を馬鹿にしたわけじゃなくて!ただ、そこは特殊だから…」
「…どんな?」
と、言い訳の事も忘れ、聞いてしまうが
「え?知らずに入る気だったの?」
と言われ、恭一は自分の立場を思い出した。
「いや、なんか、噂が何個かあるから?知っとこうかな、みたいな」
「うーん?でも、これだけは絶対な事実だし。噂云々の前に、超有名だよ?」
「いいからいいから!」
「う、ん…?」
千恵は訝しむが、気の弱さからか、それ以上、追及はしてこなかった。
「じゃあ、言うよ?」
「おう。なんでも受け入れっぞ。倉島さんでも」
そんな軽口で返したら、千恵についてきた他のクラスメートの一部が、あんなカッコでナンパとか…くくっ、的な失礼な事を言われたが、恭一は気にしない。
「えーと、山中生徒会。活動内容は、依頼の解決」
「依頼?つか生徒会かよ…」
恭一は意味がよく分からず、千恵に聞き返す。もちろん後半部分は誰にも聞こえないように言ったが。
「えー、はい。例えば、落とし物捜索とか」
そこまで聞いて恭一は、なんだよ。そんな事か。特殊体質いらねえだろ、と内心馬鹿にしたが、続かれる言葉によりその考えは叩っ斬られた。
「学校内に侵入した不審者を、例えそれが連続通り魔であっても、学校内から排除すること、とか?」
「…」
「あの、だから、」
「…」
「し、死なないでくださいね?」
こうして恭一は神から見放されたのだ。