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うっかり深層意識にある本音が飛び出すことを言い表すイディオムに、“Freudian slip”がある。

ある出版社の会長によりしたためられた、ボローニャにかかわる紀行文を、ネット上で偶然見つけたのだが、その中の、以下に引用する一節などは、まさに“Fruedian slip”、ボローニャで暮らす日本人の話とはいえ、うっかり深層心理にある本音が、頭を出した顕著な事例ではないだろうか。

そのK子さんは「ボローニャも外国人労働者が増え、公園などが荒廃し、治安も悪くなっている」という。お母さんたちが子どもをとりまく環境をよくするため、「親子劇場」をつくる運動を始めている。

一見、目ざわりのよい言葉の中に包まれているから、分かりにくくはあるが、会長自身も、《K子さん》と同様に、《外国人労働者》=治安悪化、荒廃の元凶という教条的な図式を、心の深層では確信しているふしが、どうしても感じられてしまう。そして、忘れてはいけないのは、《K子》さんも、たとえパートナーが伊太利人であろうとも、もともとは、まぎれもない《Extra Comunitari》=共同体部外者であることだ。まるで、生粋のボロネーゼから出るような物言いに、なんだか違和感を抱かされてしまう。

もっとも、会長が、東京都知事や国民戦線党首ルペンのような了見の方ならば、違和感などあまりわき起らなかっただろう。反戦平和、自由平等、博愛といった了見を基調にする本を主に出版している会社の会長のようだから、ことさら違和感があるのだ。

たしかに、ボローニャに限らず、外国人労働者が移住先で犯罪を起こす例は、枚挙すれば際限がない。大鉈で切りさいて見れば、そういえる面も多々あるのだろうが、個別に、さまざまな出自の人間とつき合ったり、接してみれば、つゆ犯罪はおろか、コピー商品の販売にも手を染めず、まっとうに、地道に、ボローニャの例でいえば、Piazza Grandeのような団体に支えられて、路上で新聞を売って生計を立てようと日々奮闘している人々もいる。また振り出しがコピー商品の路上販売であっても、それぞれ目指すところは、伊太利で社会的に認められた職業に付く事であったり、故国の家族への仕送りであったり、事業を起こすことであったりする。

そんな現実を少しでも垣間みているならば、《外国人労働者》が、主な犯罪の温床、元凶、荒廃の要因などとは必ずしもいえないのではないかという思いに至り、おくびにも出しにくくなるはずなのだが。



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