藤木 TDC, ブラボー川上
まぼろし闇市をゆく 東京裏路地「懐」食紀行


首都圏在住の頃は、とにかく人付き合いに明け暮れた。

それはそれで、血となり肉となることであるから、多分に悔やまれることなどなかったが、どうしても、人付き合い、目先の生活に追われるあまり、彼岸へと引っ越す前に、集中して、現世に残していきたいことに、本腰入れて取り組めないことへの焦りは、かなりあった。

ただ、首都圏、あるいは極東を離れてどうするのか。

かかる自問自答に対して、明確な答えを出し切れないでいた。

前家族だの、または恋人などの手枷、足枷もあったから、なおさらだ。

たしかに、私の場合は、自発的に首都圏を離れたとはいいがたい。

うむを言わせず、父の介護をどうしても引き受けなければならない立場になったのが、首都圏を離れた大きな理由だった。

すぐに戻ってくるとうそぶいたりもしたが、実は、かなり未練たらたらだったし、離れる直前は、至極失望に打ちひしがれていたし、精神的にも乱れに乱れた。

現在は、心底から、あの時、首都圏を離れられたことに感謝している。

自分の残していきたいことに取りかかれているし、同時に、極東と世界各地との往来を重ねていく生活の土台が徐々に出来つつある。

ネット社会になったおかげで、あらゆるものが、自宅にいながらにして手に入るし、首都圏世界各国の人々とのやりとりも頻繁にできるから、地方のハンディなどあまり感じない。

首都圏にしがみついていては、ただひたすら、生活に追われ、《最善を祈るばかり》の人生だったろう。

河北新報(平成19年10月19日朝刊)の『現代の視座』に、田中優子氏が、《「都至上主義」を捨てて地域文化に目を》と銘打った記事をしたためておられる。

首都圏を離れたことに大きな結実を感じ始めている私にとっては、大変力強い励ましになる記事だ。

ちなみに江戸時代は地方の方が平均寿命が長かったとみられる。白米中心で住宅が密集している江戸より、地方の栄養状態や衛生状態がよく、火災や震災の被害も格別に小さかったからである。


かかる一節は、現在でも、地方がいくら経済的に逼迫、衰退しているといったって、十分にまかり通りそうなことだ。玉村豊男氏式にオサレな農業をやろうとすれば、金はそりゃしこたまかかるが、現金収入が少なければ、ささやかに自家用だけなら、みずから、首都圏に比べて格安で借用できる田地田畠を耕せばよろしく、入山を禁じる山も多くなったといえ、野山に分け入れば、山菜、茸、木の実、果実を入手出来るし、地域とこまめに連係をはかれば、お裾分けにだって預かれる。余録があれば、此内鶏、烏骨鶏、さらに余裕があるなら豚、牛、馬の飼育したっていい。湖沼はブラックバス、ギルが大繁殖しているとはいえ、バスならば喰えぬこともない。釣り、投網、素潜りの心得身につければ、川、海でのすなどりだって可能だ。既存漁師との深い関係を構築すればなおよろし。

車社会になっているために、運動不足、足腰を弱らせかねない面もあるが、現金以外の方法で、食糧を獲得するための行為が、へたな筋トレ、ヨガよりも効果的な、エクササイズになること請け合いである。ご先祖さまたちは、大方、そうやって生業をたてていたことを思えば、何を恐れることなどあろうか。


ある学生は「どうしてこんなにおいしいのか分からないほど、おいしいものばかり」と言った。別の学生は「今は東京という中心地のために他の地域があるようでおかしい」と首をかしげた。


まったく同感だ。《東京至上主義》の呪縛以上に、極東の人々の強迫観念になっているのは、《地獄の沙汰もなんとやら》は実にごもっともとはいえ、《現ナマ》の呪縛だ。それこそ、あらゆる不安の正体だ。いやあ、現金が少なければ、健康であることはなりよりの条件だが、田地田畠、海山川さえあれば、自ら拵えるといった気構えさえあれば、なんとかなる。やはり、人は遅かれ早かれ、老い行き病に倒れるのだから、それを見すててはおけぬ家族、あるいは地域共同体との関係構築は、むろん必要不可欠だが。


江戸時代の日本は各藩が特産品を持ち、経済も法律も自立していた。漁や農や流通や鉱物資源で独自の産業が発展し、武士もそれに尽力していた。漁で大金を稼ぐ者もおり、農村で優れた布や紙が生産されていた。


江戸期さながらの回帰は果たせなくとも、伊太利などに倣って、地域の色を出していくことは、多分に可能だ。

現在居住している県の近隣にも、よく足を運ぶが、その度に、極東も均質化の一方で、なかなか《捨てたものではない》一面があると思う。

極東ではなく、《東京至上主義》に、私は食傷していたのかもしれない。

ついでながら、宮崎ばかりが、何だか鳴りもの入りで喧伝される、昨今の一極集中振り、偏向振りに、なぜ各地の知事達が、異議を申し立てないのか不思議である。

自分の生まれ出た地域を、苟も偏愛するというならば、声を荒げて抗議の弁を申し立てるのが、スジではないのか。





荒木 経惟
東京猫町



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