漁をしていた船はどの船も帰りじたくをはじめたが、海は「あっと」いうまに白波が立って、じいさまの頭みたいに真っ白にかわって、うねりもだんだん大きくなってきた。

なにしろ、ちっちゃな船を八丁櫓で大海原を乗り切るわけだから、ただごとじゃぁねえ。

大きいうねりの底へ、へえれば頭の上に波があるし、のし上がれば船ごと空へとびあがったみてえにほっぽりだされる。だっけど、このくらいのことは「屁」とも思わなえ若け衆だから、

「ほっ、せっかくのだいりょうをふいにしちゃったな」そんなことをいっているうちに、空模様がおっかしゅうなっててんぱれの空にいつのまにか真っ黒な雲がすっかりおっかぶさっちまった。

そして、大つぶの雨が、ぽつんぽつんとやってきた。

すると船頭が「ええ若け衆!いっしい、ようきになってきたど。いっちょ、腕によりをかけてなぐらしてもらわねばおいねど」 というもんで、みんなでがんじょうなカシの木の櫓がしなうほどこいだ。雨はいつのまにか滝みたいになって、

目玉の中までたたきつけてくるもんで、みんな目をまっかにはらして、こいだ。

ただ夢中でこいでいると、船頭の声で

「ええ、あの船はおっかしどー!あっちへいったでは瀬にぶちあがちゃうべど」って。

見ると一艘の船がおもかじの方(右方向)へおもかじの方へと遠くなっていくところだ。

そいでみんなで「ほっちはおいねどー、 瀬にのしあがちゃうどー、とりかじだーとりかじにしろー叫び」 のどがつぶれるほどどなったけれど、だんだん離れていって、

とうとう見えなくなっちまった。

さっきまでは何艘か見えた船の仲間の姿もこれでみんな見えなくなっちまっただ。

これもとっしょりの話だが、やっぱり同じよな時化に会った時、真っ暗な海の中からまえに

時化で死んだほうべの声が「おおーい、こっちだどー おおーい、こっちだどー」って

聞こえてきたってことだ。あとになってみるとその声のする方へいってれば、

やっぱし遭難したなあ。

そんな時はよっぽど気の強え船頭でもめじもんを見ることがあんだよなあ。

このつづきは明日にしてね。