2009.9.23 房日新聞論説「展望台」より
台風が接近している日に内房、外房、南房と所用であちこち車を走らせていた。南房総は三法を海で囲まれている。けれど、気象条件や潮の満ち引きの関係もあるのだろう、同じ日でも場所によって海はずいぶんと違った表情をみせてくれる。そこがまたこの土地の魅力である。
台風がきているというのに内房の海は穏やかであった。鏡ケ浦と呼ばれる館山湾がその典型だが、南西に張り出した半島が堤防の役目を果たし、この海は内陸の湖のように静かなことが多い。古くから東京湾の海上交通の要所として、また軍事的枢要地として栄えたのは、多少の悪天候でも波穏やかな天然の良港を備えていたことがひとつの要因であろう。ここの海が白波立つのは北西寄り風が強く吹く冬場が多い。
館山から丸山を通って和田の海にでる。内房の海に比べると、太平洋に面した外房の海は普段からかなり荒っぽい。しかし、海沿いの道からいつも必ずといっていいほど見えるサーファーたちの姿が見当たらない。ここらはサーファーたちに知られたポイントである。さすがの彼らも台風に恐れをなしたのだろうか。
用事もあらかた済んで帰りに白浜のある店に寄った。店主は留守であった。しかたなく店の外に置いてあるベンチに座り、海を眺めた。かなり沖のほうから大きな波が立ち上がってくるのがみえる。潮騒の海の彼方に海ありて…。むかし知人が詠んだ歌を思い出す。南に突き出た半島の南端であるここから向こうはどこまでいっても海なのだ。風も波も遮るものはない。きょうは和田よりも大きな波が打ち寄せているようであった。
しばらくすると店主が戻ってきた。サーファーの店主はいう。南の海上からゆっくりと台風が北上してくるとき、布良の海には年に何度もない絶好の波がくる。そして、きょうがその日なのだと。その波が和田にいくのは一日遅れることが多いらしい。
世界的に有名なサーファーもやってきて布良の堤防の向こう側で波乗りをしているというので見にいった。たしかに大きな波がきている。映画でみるようないわゆるパイプライン、波が崩れる時に大きな空洞ができて、そのパイプの中を波に乗って進む人がいる。そんな光景をこの目で見たのは初めてだ。布良の波はすごいものだ。