妻がどうやら、何の件か知らないが、俺と話したがっている様子が見てとれた。

俺は、それを不気味に感じて、距離をとっていた。

妻から『ちょっと話そうか。』と言われた。

俺は
『今さら話すことなんかないよ。』と答えた。
そして、その場から逃げた。


その夜…

妻から再び『少し話しないかい』と言われた。

俺は断ったが、しつこい。


仕方なく話を聞くことにした。


妻が
『一緒に地獄に落ちてみるか。』と笑顔で俺に言う。

俺は
『ん?一緒に…地獄に…?』
正直意味がわからなかった。意味はわからなかったけど、とにかく響きからするに、良い話ではないと感じた。

『一緒に地獄に落ちるって…どういう意味?』と聞いてみた。

妻は
『借金は増えるかもしれないけど、もう一度やり直すって意味だよ!』…何故か笑顔で。


俺は、我が耳を疑った。
この人は一体何をいってんだろ?
どうやったら、そんな思考がわいて出てくるんだろ?
しかも、これまで、ずっとそうだった、上から目線でさ。

必死に、必死に、それはもう必死に全力で拒絶した。

『金の問題が解決する訳じゃないし、問題を先伸ばしにしたってどうにもならないだろ?』
『っていうかさ!もう俺が無理。』


と伝えたら…
妻は
少し笑顔を浮かべて『うん。わかったよ。』と、とても優しげな眼差しで俺を見ていた。

その日は、俺も疲れていたのですぐに床についた。


俺は、まるで魂が抜けた後のように、抜け殻になっていた。

 

決意を持って言ったこととはいえ、とてつもないことをぶち上げたもんだ。羽陽曲折ありながらも、やっぱり家族を大切に考えてきた。それを、その大切な存在だった家族を俺は自らの意思で放棄するのだ。

 

まずもって、子供たちに申し訳ない。本当にダメな父親でごめん。

 

できれば、これからもお前たちの成長を近くで見ていたかった。お前たちと喜怒哀楽を共にしたかった。

 

だけど…パパはもう限界です。

離れるのはマジで寂しいけど、それを我慢すればお前たちは、スクスクと育つことができる。

そう!親はなくとも子は育つ。

 

 

夜になって、妻から、「週末に下の子の学芸会があるから、それが終わったら、あんたから子供たちに離婚のことを話してちょうだい。」と言われた。

 

俺は

「わかったよ。」と静かに答えた。

それから2日ほど、考えた結果を伝えたくないとの思いで、妻との接触を俺は避けていた。

妻は、俺にぴしゃりと言ってスッキリしたのか、その後は俺を完全に無視するってことはなかった。

だけど…だけど…やっぱり、俺に考えた結果を確認するべく子供たちを寝かしつけた後、俺のいる居間にやってきて、俺の正面に座った。

そして、『この間言ったこと…どうするのか考えたのかい?』と冷たくいい放つ。


俺は、やっぱり来たか…あ~あ…
答えたくないなぁ…だって、これ伝えたら終わりだもんな。
そう思いながら俯いていると、妻が催促してくる。

ふ~…

意を決して!
気合い入れて。俺は、話した。


『これから益々子供たちにお金がかかるのが分かってて、現時点でも家計が火の車な訳だ。そう考えると、数ヶ月くらいは我慢して誤魔化せないこともない。だけど、来年はもう無理だよね。
それなら、別れて、生活保護もらいながらあなたが働いた方が子供たちの生活は確実に守られる。』

『これまで頑張ってきた分、とても悔しいけれど、俺にはもう家計は支えられない。ごめん。だから、別れよう。』

そう伝えた。

妻は
『ふーん…まぁそうかもね。じゃ、寝るわ。』
と言い残して寝室へ消えた。


俺は、すっかり定着した一人きりの居間で、遂に言っちゃった。言っちゃったなぁ…これでもう、終わりだ。子供たちとも、さよならしなきゃ。

そう考えてたら、涙が流れた。
そして、涙が止まらなくなっちゃった。

ひとしきり泣いて、その日は寝たんです。