自由に書く、というのはどういうことだろう。
それを僕は、ほんの少し前まで知っていたろう。
それを今僕は、すっかり忘れてしまったのだ。
ノートを前にして、ペンを握って、
書けることなど何もない。
一生分の余白が、そこにある。
恐ろしいほどの虚無が、ひたすらに広がって、
座標のない白さの中に佇んでいる。
そう遠くはない過去に、どんなことがあったのか。
どうしてあんなに簡単だったことを
忘れることができてしまったのか。
きっと大したことなど起きていない。
僕は十六才から二十五歳になった。
時同じくして、
月の欠片に心打たれることもなくなった。
きれいな弧を描く、華奢な星があるだけで、
今僕の心の何らかを、的確に喩えてはくれない。
満月の夜、どれほどあの光に
心をあずけていただろう。
それを月は、どれだけ許してくれたろう。
今はただ、きれいに光る星が
ただ目の前にあるだけだ。
おわり