ボクはあまり夢を見ないタチである、なんつーような事を言うと、多分お偉い学者さんだの博士さんだのは、こぞって、「そんな事はない。誰でも夢は見ている。ただ忘れているだけだ」ってな感じで反論してくるだろうから、言わないけど、とりあえず、ボクは夢を憶えているという事が、本当にできない人間なのである。


それこそ、夢を見た、という事実さえ忘れちまったりなんかしてるもんだから、上記のように、ボクは夢を見ない、なんて思い込むのも無理ない話、まあ、これはこれで、ある意味幸せなんだろう。


とある国のどこかの誰かさんが、毎日自分の夢を詳細に日記に付けていたらある日気が狂った、っちゅう話をどこかで聞いた事があって、それが事実なのか都市伝説なのかまでは、ちょっと分からないんだけれども、とにかく夢を憶えているというのは、あまり精神衛生上よろしくはないようだ。特に悪夢の場合。


ボクが今でも強烈に憶えている悪夢は、小学生の頃見た夢で、お父さんが悪の首領に改造人間にされてしまうというものであった。

話だけすると、何ソレ? 怖い夢、ソレ? なんて思う人多々であろうけれども、これがまあ、子供心には大層怖かったんである。

手術台の上むっくりと起き上がる、頭にフランケンシュタインみたいな手術痕付けたボクのお父さん! お父さーン!


って、ガバッと起き上がって汗びっしょり、ああ、夢か、って安堵、という漫画みたいな目覚め方をしたのは後にも先にもこの1回だけである。だから強烈に憶えているわけなんだけれども、憶えている、っつったって、そんな日がな1日その事が頭から離れないというわけでもないし、何かの拍子に、ああ、あんな夢、あったあった、と思い出す程度だ。


今日は悪い夢を見た。

だからそんな昔見た夢の事を、ふと思い出したのだ。


今日見たものが、悪い夢と言っていいのかどうか、本当はよく分からない。妙にリアルであったり、でもどこか馬鹿げている、そんな感じの夢で、まあ、夢ってのは大概そんなもんだけれども、ともかく、その夢の中ではボクが傷付けた人が泣いていて、ボクは夢の中で、ああ、申し訳ないなあ、と思い、そして目覚めてからそれが夢だと気付いた後で、ああ、申し訳ないなあ、と再び思ったのだった。


何故なら夢に出てきたボクが傷付けた人、というのは、現実のボクが過去に傷付けた人で、それをそこまで引きずっているつもりは自分でもないンだけれども、たまたま夢に見ちまったもんだから、ああ、何かブルーだ、ってアンニュイな朝、タバコとか吸いながら自分の浅はかさを反省とかしたりしたんである。


全く、こういう夢に限って、よく憶えている。


どうせなら楽しい夢を見たいものだけれども、ひょっとしたら何度も見ているかもしれないけれども、悲しい事に、そんな夢の記憶はちっともボクの脳に残っていないのだった。


高校の頃よくつるんでいた友人は、夢の中で自分の意思どおり自由に動き回れるという特異な能力の持ち主で、「オレ、夢の中に河童の友達がいるんだぜ」って言われた時には、何か、とても羨ましかった。


ボクの夢の中にいるのは、悪の首領とか改造お父さんだとかプレスリーのバラバラ死体とかそんなんばっかりで、本当に、夢も希望もありゃしない。


仕方ないからタバコなんぞふかしつつ、今日は徹夜で原稿とかするつもりなんだけれど、次に眠った時には、何かこう、大金持ちになって豪遊する夢とか見たいなあ、ってな事をひしひしと思ったりする。


でも、現実には仕上がってない原稿が、夢の中で仕上がった、っちゅう夢だけは、見たくない。


夢の中では嬉しいだろうけど、現実には、できてないじゃん? 原稿。

だから今必死でやってんじゃん?


ってなわけで、そろそろ、原稿に戻ろう。



これから眠る人は、おやすみなさい。良い夢を。