著者: 横山 秀夫
タイトル: 第三の時効

勝手に採点 ☆☆☆☆☆!

県警捜査本部を舞台に刑事たちの葛藤、執念に満ちた熱き闘いの
ドラマ。追う者と追われる者のスリリングな駆け引き、県警内部
の複雑な人間模様を鋭く描く刑事小説。

事件とそれを取り巻く刑事や記者にスポットをあて、圧倒的なまで
のリアル感、存在感で読み手を強く惹きつけ容易に放さない。

特に男臭さとその経歴から捜査第一班を率いる朽木がカッコイイ。
沈着冷静で何事にも動じない強靱な精神力を持つ一方で、被害者の
小さな棺桶を前にメンツや手柄も捨て去ることが出来る潔さ。

その他二班楠見、三班村瀬など曲者揃い。それぞれの刑事にスポット
を当てワンパターンに陥らない展開は見事。

それぞれのストーリーも刑事の閃きに頼る部分が大きいものの、
緻密な構成と行間を読ませる手法で思わず唸らせるうまさが目立つ。

特に良かったのは「沈黙のアリバイ」と「第三の時効」
どちらも哀愁が深く漂う味わいと大岡越前的な痛快さを併せ持つ秀作。

短編でここまで引き込まれたのは初めての経験。
それだけ主人公に感情移入でき、同じ視点で体感できる迫力感。

この「読引力」ともいうべき力を持った作家は、現在横山氏の右に
出る者はいないだろう。とにかく満足できるその出来映えに、
いまだお読みになっていない方にはぜひ一見の価値あり。

注意事項として、睡眠前の服用はお薦めしない。
ただし、「寝不足」覚悟の方なら、貴重な睡眠の対価に見合う
素晴らしい時間を過ごせること請け合い。

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