たくさんのモヤモヤを抱えた僕の心を
フワッと軽くしてくれたのは、隣のクラスの女の子だった。
その子は何も言わずに僕の話を聞いて
最後まで取りこぼすことなく聞いたあとで
「私も同じことを考えてた」
と、真剣な顔で言った。
みんなとは違う、変なモヤモヤを聞いて
笑わずに真剣な顔でいてくれるこの子に
僕は生まれて初めて
恋愛的に好きだという気持ちを抱いた。
「女の子だから女の子を好きになっちゃいけない、なんてルールは聞いたことがないし、辞書にも図鑑にも書いてなかったよ。」
「自分が誰を好きになったって、誰かに怒られるわけじゃない。好きな物は好きなんだから。」
少し怒りながら、でも笑いながら
僕の隣で膝を抱えて話すその子と過ごす時間は
すごく居心地が良くて、体も心も軽くなった気がした。
その日を境に、僕達は更に仲良くなって
休み時間の度に隣のクラスに行って
チャイムが鳴る直前まで、ずっと話をしていた。
そんな日が続く中で、いつしか僕は
「この子にかっこいいと思われたい」と
無意識に、意識するようになっていた。
ボサボサだった髪を整えたり
親にねだって新しい服を買ってもらったり
その子が「かっこいいね」と言ってくれるように
好きそうなものは全部、その子に見せに行って
「好き」と言ったものは全部手に入れようとした。
ただ、あまりに突っ走りすぎて
暫くすると、距離を置かれるようになった。
「あの子、○○ちゃんのこと好きらしいよ」
「え、じゃあ女の子なのに女の子が好きってこと?」
「男の子みたいな格好して、男の子になりたいのかな?」
僕はまだ、「好き」なんて伝えてもいないのに
コソコソと噂話も流れ始めてしまった。
僕に聞こえるように囁かれるその言葉に
僕はどこか納得するような感覚があった。
確かに、今までフリフリの服やスカートを避けていたわけではないけど、あまり着なくて
いつの間にか少しずつ「着たくない」と思い始めていた。
初めて恋愛的に好きだと感じた相手は「女の子」だし、僕は「男の子」になったのか?
でも、僕は男友達みたいに
急に背が伸びたり、声が低くなったりしていないし、それどころか胸が膨らみ始めたり、生理が来たりしている。
頭と心が置いてけぼりの中で
身体だけがどんどん、「お前は女の子だ」と
声を大にして訴えてくる。叫ばれている。
なんだこの身体は。
僕という人間は、一体なんなんだ。
おちつかない。
きもちわるい。
ハッキリしない自分が許せない。
何にぶつけたらいいのか分からない
苦しみや怒りが、腹の底からふつふつと沸いてくる。
頭はもうパンク寸前で
電球のように頭でっかちになった気分だった。