「成人式の日に開けるためのタイムカプセルを作ろう」



先生がそう言い出して、教室がザワザワしている。


僕はその頃から、「将来のこと」なんて

いくら考えても想像がつかなくて、考えられなかった。


今日埋めたタイムカプセルを、大人になって掘り返す。…一体、なんのために?


そう思いながらも、宿題に追加された

「ハタチの自分へ」の手紙を書いていた。




周りの友達に何を書いたか聞くと

なんの仕事をしているのか、どこで暮らしているのか、そんな質問よりも1番多く書かれていたのは



「彼氏・彼女は居るのか」


もう結婚してるのかとまで書いている友達もいて、早すぎるだろとツッコむ気持ちを抑えた。



友達に比べて、僕が与えられた時間で書けたのは

「元気?友達と家族も元気だといいな」

それだけだった。


あまりにも将来への想像と期待が出来なかったので、本当に何を書けばいいのか分からなかった。



そんな僕を見かねて、先生が

「友達の真似をして書いてみなさい」と言ったから

「真似して何になるんだ」とブツブツ言いながら

1番仲のいい友達の手紙を見せてもらって、内容を少し変えながら書いていた。


そんな時にふと思った。


「ねぇ、なんで彼氏がいるか聞くの?」


友達は嬉しそうに

「彼氏がいたら嬉しいじゃん!」と答えた。



違う、僕が聞いているのはそこじゃない。

なんで自分には「彼氏」しか出来ないと確信しているのか、という事。


誰ひとりとして「彼女」が出来るかもと

想像していないことにふと気づいたのだった。



気づいたところで、少し不思議に思っただけで、特に何もしなかったけど。








小学生というのは単純なもので

その日から、クラスの誰と誰が付き合い始めたとか、あの子は隣のクラスの子に告白するんだとか


そういう話でいっぱいになった。



そんな時に友達が「君は誰が好きなの?」と聞いてきて、

「僕は君が好きだよ」と答えると「それは友達としてでしょ?」と返された。



それを聞いた時に、この子の中で同じ性別として生きている人を、恋愛という色眼鏡で見ないんだと、幼いながらに確信した。


特にその子のことは恋愛の意味で好きではなかったけれど、もし恋愛の意味だったらその瞬間、大泣きしていただろう。



そのあと、何人かに聞いてみても、友達と同じ考えの人しかいなかった。

つまり、僕みたいに「不思議」だと思っている人がひとりも居なかったんだ。



それに気づいてから、自問自答の日々が始まった。

「僕はなぜそれを不思議に思うのか」

「そもそも僕には彼氏も彼女もできるんだろうか」



彼氏も彼女も別に、恋人に変わりないよな

でも、なぜみんなは、どちらかにこだわるんだろう

女が男に、男が女に恋愛感情を抱くのならば

僕が女の子を好きになったら、僕は男になるのか?




そんな不思議な考えが渦巻いて

僕の頭の中の深いところでずっとグルグルしていた。