「ありのまま」ということ | 忘れないようにメモメモ(日本の歴史、近代史)

「ありのまま」ということ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
むさ苦しく貧しい住居でも客を迎へるときにはできるだけきれいにと心掛けるのも、貧苦を隠すためではない。貧乏をムキツケにして客人の心を暗くさせないためである。それがありのままを、といふ心づかひなのだ。つまりありのままとは、相手にたたみかけていく暴露ではなく、迎へる者と迎へられる者との間にわざとではないなごやかな通路をつけることである。カベ新聞の一件にみられた市職の態度は、ありのままをに名をかりて、この暴露をやらうといふのだ。すでに政治の圏外にをられる陛下を、強ひて政治の圏内へ引っぱり込み、国民との間の親愛の通路をしや断する戦法なのであろう。組合運動の旗を掲げる政治運動の新版である。ほんたうにありのままを見て頂かうといふわたしたちは、貧しいながら汚いながらも、できるだけ美しく掃き清めて、心からの敬愛のじょうをささげようではないか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
保田與重郎文庫 近畿御巡幸記