そこは祖父のみ魂のこもる日本の土 | 忘れないようにメモメモ(日本の歴史、近代史)

そこは祖父のみ魂のこもる日本の土

私が死んだら



私が死んだら

私は青い草のなかにうづまり

こけむしたちひさな石をかづき

青い大空のしづかなくものゆきかひを

いつまでもだまつてながめてゐよう。

それはかなしくもなくうれしくもなく

何となつかしくたのしいすまひであらう。

白い雲がおとなくながれ

嵐が時にうなつて頭上の木々をゆすぶり

ある朝は名も知らぬ小鳥来てちちとなき

春がくればあかいうら青い芽がふき出して

私のあたまのうへの土をもたげ

わたしのかづいてゐる石には

無数の紅の花びらがまふであらう。

そして音もなく私のねむる土にちりうづみ

やがて秋がくると枯葉が

一面にちりしくだらう。

私はそこでたのしくもなくかなしきもなく

ぢつと土をかづいてながいねむりに入るだらう。

それはなんとなつかしいことか

黒くしめつたにほいをただよはせ

私の祖父や曾祖父や

そのさき幾代も幾代もの祖先たちが

やはりしづかにねむるなつかしい土

その土の香になつかしい日本の香をかぎ

青い日本の空の下で

私は日ごとこけむす石をかづき

天ゆく風のおとをきくだらう。

そして時には時雨がそよそよとわたり

あるときは白い雪がきれいにうづめるだらう。

それはなんとなつかしいことか

そこは祖父のみ魂のこもる日本の土

そこでわたしはぢつといこひつつ

いつまでもこの国土をながめてゐたい。

ただわたしのひとつのねがひは

ーーねがはくは 花のもとにて 春死なん

  そのきさらぎのもち月のころーー


近代浪漫派文庫 大東亜戦争詩文集36 山川弘至 詩編