歴史(祖先)に対するに愛情をもって
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
戦争の反省
大東亜戦(われわれははこうよんでいた)のおこったとき、私は深いかなしみにとざされた。敗戦の日のいたましい姿が目さきにちらついてならなかった。私にはこの戦争が勝てるとは思えなかった。軍隊が、政府が、どのように終戦へもっていくかは、われわれにはわからないとしても、まず第一に自己崩壊をさせないで戦いを終わりたいことと、戦いの終わったあとわれわれはどのように対処してゆけばよいかを、今から考えなければいけないと思った。
この二つの考えは戦争が終わるまではなれなかった。
ただひとつ、この戦争は日本にとっては実に大きな犠牲をしいられたことになるけれど、何らかの意味で民族解放の戦争になるだろうということにかすかな希望がもてた。東亜諸民族が、それぞれ自分の力で立ちあがるための、一つの契機になるだろうということは想像せられた。
~
日本が敗戦によってうちひしがれ、全く自信を失っているとき、アジア諸国はつぎつぎに立ち上がった。太平洋問題調査会のインドのラクノーにおける各国代表の講演を読んでみると、いかに希望にもえ明るく輝かしいことか。それは明らかに明日を持った人々の生命の躍動によるものであるといえるだろう。
大東亜戦は批判者たちの言うごとく、軍部の、政府の、ブルジョアたちの陰謀によるものかもわからない。しかし私はただ単にそのように考えたくない。圧迫せられた民族の心の底のどこかに、あるいは血の中にその圧迫をはねかえそうとする意欲がつよく動いていたことも、この戦争を初期において大きく拡大させた原因だったと思う。周囲民族のわれわれを支持する気持ちは、われわれの彼らに対する信頼の裏切りのために、われわれからはなれていったけれども、自らの足であるいてゆこうとする夢はすてなかった。少なくとも戦場にあって聖戦を信じ、自らに忠実であった人々の人間的な努力が、政策や戦略を超えて、同じ民族の心の中にともした火は明るいものであったと思う。
自らを卑下することをやめよう。人間が誠実をつくしてきたものは、よしまちがいがあってもにくしみをもって葬り去ってはならない。あたたかい否定、すなわち信頼をもってあやまれるものを克服していくべきではなかろうか。
私は人間を信じたい。まして野の人々を信じたい。日本人を信じたい。日常の個々の生活の中にあるあやまりやおろかさをもって、人々のすべてを憎悪してはならないように思う。たしかに私たちは、その根底においてお互いを信じて生きてきていたのである。
(「庶民の発見」宮本常一)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
戦争の反省
大東亜戦(われわれははこうよんでいた)のおこったとき、私は深いかなしみにとざされた。敗戦の日のいたましい姿が目さきにちらついてならなかった。私にはこの戦争が勝てるとは思えなかった。軍隊が、政府が、どのように終戦へもっていくかは、われわれにはわからないとしても、まず第一に自己崩壊をさせないで戦いを終わりたいことと、戦いの終わったあとわれわれはどのように対処してゆけばよいかを、今から考えなければいけないと思った。
この二つの考えは戦争が終わるまではなれなかった。
ただひとつ、この戦争は日本にとっては実に大きな犠牲をしいられたことになるけれど、何らかの意味で民族解放の戦争になるだろうということにかすかな希望がもてた。東亜諸民族が、それぞれ自分の力で立ちあがるための、一つの契機になるだろうということは想像せられた。
~
日本が敗戦によってうちひしがれ、全く自信を失っているとき、アジア諸国はつぎつぎに立ち上がった。太平洋問題調査会のインドのラクノーにおける各国代表の講演を読んでみると、いかに希望にもえ明るく輝かしいことか。それは明らかに明日を持った人々の生命の躍動によるものであるといえるだろう。
大東亜戦は批判者たちの言うごとく、軍部の、政府の、ブルジョアたちの陰謀によるものかもわからない。しかし私はただ単にそのように考えたくない。圧迫せられた民族の心の底のどこかに、あるいは血の中にその圧迫をはねかえそうとする意欲がつよく動いていたことも、この戦争を初期において大きく拡大させた原因だったと思う。周囲民族のわれわれを支持する気持ちは、われわれの彼らに対する信頼の裏切りのために、われわれからはなれていったけれども、自らの足であるいてゆこうとする夢はすてなかった。少なくとも戦場にあって聖戦を信じ、自らに忠実であった人々の人間的な努力が、政策や戦略を超えて、同じ民族の心の中にともした火は明るいものであったと思う。
自らを卑下することをやめよう。人間が誠実をつくしてきたものは、よしまちがいがあってもにくしみをもって葬り去ってはならない。あたたかい否定、すなわち信頼をもってあやまれるものを克服していくべきではなかろうか。
私は人間を信じたい。まして野の人々を信じたい。日本人を信じたい。日常の個々の生活の中にあるあやまりやおろかさをもって、人々のすべてを憎悪してはならないように思う。たしかに私たちは、その根底においてお互いを信じて生きてきていたのである。
(「庶民の発見」宮本常一)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー