指紋押捺廃止と贈賄疑惑
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北朝鮮に送られたお金は
どこから出てきたのか
テレビの番組で何度か故渡辺美智雄氏と一緒になったことがある。収録が終わってから、料亭でざつくばらんにいろいろと話をした。ある時.万景峰号の話になった。
「あれはひどいもんだよ。札束でもなんでも、どんどん運び込んでいる」
ということを渡辺氏は語っていた。最近、北朝鮮側の人が書いているものを読んだところ、一回の航海で十億円ないし二十億円ぐらいの現金を運んだと出ていた。
その現金を誰が出したのか。日本で商売しているノース・コリアンである。 .
では、どうしてそれだけの金を出せるのか。麻薬のような闇の商売で稼いだものもあるだろう。それから、パチンコのような表の商売で稼いだものもあるだろう。しかし、重要なことは、ノース・コリアンに対して日本の税務署が長い間、日本人に対するような調査に入れず、税金を取れなかったという事実である。バブルがはじけて、関西の某大手の不動産会社が破産した。この会社は従業員の源泉徴収を行なっていなかったという。こんなことは日本の会社では考えられない。コリア人が経営者だったからである。
税金を払わなければ、日本人にも大金持ち、大実業家が大勢出てくるだろう。たとえば、松下幸之助が税金を納めずにいたらどうなるか。松下幸之助は年間納税額が十億円ぐらいで、それを三十年ほど続けたというから、単純計算で三百億円の資産がたまることになる。
私は戦前も戦後も多少知っているが、戦前、華族に列せられた両班の一部は例外として、日本に来た普通のコリア人で金持ちは一入もいなかったと言っていい。そして、戦後、日本にとどまったコリア人のうちで、極端なことをいえば、一度ぐらい金持ちにならなかったコリア人はいないだろう。
まともに働いていて税金を払わなければ、金持ちになれるからだ。
金持ちのままのコリア人たちの金の有り様は、日本人の想像を絶する。
豊臣秀吉でなくても金の茶室を作れるぐらい、ものすごく賛沢できる。その何分の一か、あるいは何十分の一かを、日本にいるノース・コリアンたちは北朝鮮にせっせと送ったのである。
指紋押捺廃止と贈賄疑惑
ここからは私の推定だが、コリア人の稼いだ金のかなりの部分が日本の政治家のふところに入ったのではないだろうか。要するに贈賄である。
何のための贈賄かというと、まず指紋押捺廃止である。指紋押捺をなくするために働いた政治家には、間接、直接を間わず、そしてコリア人の南北を間わず、金が流れたのではないか、と私は推定したい。
なぜ、指紋押捺を止めさせたいのか。戦後の闇物資ブローカーや人殺しをして逮捕された人は指紋を採られている。大金持ちになってから五年、十年、二十年たって子供や孫が日本に住むようになると、それが重荷になるのだろう。そこで、なんとかして指紋押捺をなくしたい。そのためには……というわけで政治家に働きかけたのではないか。
指紋押捺廃止は選挙の公約では言われなかった。当選した議員が集まって、なくしてしまった。指紋押捺がこれからますます重要になるというときに、である。
曾野綾子氏が産経新聞に「指紋押捺は復活すべきである」「国民に対する最低の情報は国家が持つべきである」と書いている。彼女白身は運転免許証を取るときに指紋を採られた。また、長い旅行をするときは髪の毛を置いていくと言う。どこで死んでも、DNA鑑定で誰かわかるだろうということからだそうだ。
私も学生時代、警察に指紋を採らせたことがある。寄宿していた上智大学の学生寮で何回か盗難事件が起こり、麹町警察署が来て、「強制ではないけれども、指紋を採らせていただければありがたい」と言った。私は自ら進んで登録した。だから、私の指紋はどこかにある。変死体になっても身元不明になることはないだろう。
このアイデンティフィケーションという点では、指紋押捺を人権侵害やプライバシー侵害とすべきではない。日本人も白らのアイデンティフィケーションのために指紋押捺をすればいい。
曾野氏は二十歳になったとき、成人式の代わりに指紋を採ったらいいのではないかと書いているが、私は生まれたときでも構わないと思う。また、パスポート・コントロールでは目の虹彩情報を読み取って認識する方法を試験的に使っているらしいが、それでもいい。個人のアイデンティフィケーションぐらいはプライバシーとして隠す必要はない。
また、いまはコンピユータ技術が進んでいるから、国を出入りするときに十指の指紋を採って調べれば、瞬時にしていままで何をやった人間かわかるだろう。不法なことをした人間の日本への入国は有効に制限されるだろう。
ーー(国を語る作法 渡部昇一)