恐る恐るカバーをはぐってみた。
7ヶ月以上覆っていたバイクのカバーだ。
復職も決まり、心のどこかで後ろめたさのようなものがあり、今ようやく乗ってみようか、という気持ちになれた。
しかし、そこで目にしたのは。
シートにはびこっていたのはカビだった。
ヒドイ。
梅雨の間もカバーをかけっぱなしで放っておいたツケだ。
自分は絶句し、カバーをつまむように持ち、そおっと全てをはぎとった。
うーん、としばらく考え、シートのカビをなんとかしようと、妻に相談した。
除菌シートで拭き取り、塩素スプレーをかけてきれいにしてみよう。
見た目にはキレイになったが、どうせまた復活するのだろう。
カバーを裏返して天日干しもした。
カバーをしていたとはいえ、全体がホコリをかぶっている。
風が強く吹き、下から舞い上がったホコリを溜めていたのだ。
久しぶりに見た愛車だ。
キレイに拭いてみようという気になった。
ほどほどにキレイにしてみると乗ってみたくなった。
視野の欠けはどれだけ影響するのか。
同等に不安なのはめまいだ。
1ヶ月ほど前、自転車に乗ってみたが、意外に平気に乗れた。
めまいの影響はあまり感じず、かと言って全くない訳でもなかった。
同じようにイケるのでは、と期待した。
自分なりの勝手な期待を想定していた。
ある行動で、めまいがピタッとおさまるのではないかと。
その一つは自転車に乗る事だった。
次はクルマ。
その次はバイクだった。
勝手に想定したのはドラマか映画のように、ある行動で、治ってる、治った、治ったぞー、と喜ぶ時が来ると。
期待は裏切られ、今度のバイクはどうか。
またがってみる。
両手をハンドルに乗せライディングの姿勢でバックミラーを見る。
ミラーのズレを直し、両手足を使い操作してみる。
左手のクラッチレバーを握る動きは問題なさそうだ。
力が残っている人差し指と中指のおかげで握る事は出来る。
左足でギヤを操作してみる。
四肢の操作はイケそうだ。
どうするか、乗ってみるか。
そうだった、バッテリの配線を切っていた。
工具を持ってきて繋げてみる。
細かいところが見にくい。
やはり、こうした手元の作業には非常に難しい視野になっている事がわかる。
小さなボルトをバッテリケースに落とした。
マグネットを付けたドライバでくっつけて拾い上げた。
道具は揃えておくもんだ。
繋がった。
キーをひねりONにしてみる。
ニュートラルランプが灯り、ウイーンと音がする。
バッテリは生きていた。
いよいよエンジンスタートだ。
キュルキュルキュルストン。
一発目はかからなかった。
半年以上動かしていないもんな。
もう一回かけてみる。キュルキュルキュルブォーン。
かかった。よかった、生きていた。
少しの時間エンジンを回しておこう。
安定してないエンジン回転。
リズムが良くない。
2、3分かけてみると安定感が出てきた。
走ってみるか。
手足の操作を忘れるかと思えるほどのブランクを感じながら発車してみた。
乗れた。
庭を出てほんの少し、2速にも入れられないようなスピードだが、ほぼ不安なく乗れた。
ちょっと調子に乗りヘルメットとグローブ、免許証を持ち、出てみようと思った。
妻も外に出て見てくれた。
ゆっくり出て走った。
2速、3速とギアを上げる。
走れる、走れるぞ。
自然にウインカーボタンに指が動き左折右折と走り出しから順調だ。
少しバランスがとりづらくフラつく感じがあるが、めまいのせいではない。
しばらく乗ってない事の勘の鈍りだ。
気持ちいい、風が全身にぶつかってくる。
2kmくらいは走って家に無事帰った。
妻が出迎えてくれた。
乗れたね、と妻。
うん、あまり問題なさそう、めまいのフラつきも感じないかな。
イケるのか。
こうしてまた一歩前進した事を実感した。
これまでを振り返るとめまいは多少改善しているのではないかと思える。
しかし、特定の状況になると変わらずグワーンとする。
自分が勝手に想定していたドラマや映画のようなセリフは出る事はなかった。