約1年半ぶりになる循環器のクリニックでの診察だ。
仕事を定時で終えると予約時間を過ぎるので、恐らく今回から毎回時間有給を使いながらの通院になると読んでいる。
とは言え、1時間の時間有給で済むので、それほど影響はない。

このクリニックは約1年半前まで3年以上お世話になっており、手術入院、療養を経ての通院再開となった。
クリニックの先生には、これまでの経緯をぎゅっと要約して話そうと思っていたが、クリニックの先生は友人ではない。
治療の経過や現状は循環器の病院から循環器のクリニックへと情報が伝わっているはずで、自分が話す事はクリニックの先生から尋ねられた事と、自分の気になる事だけでいい。
それでもどこか自分が、ここに帰ってきた、ような気持ちがあり、積もる話をしたい衝動に駆られていた。

1時間早く仕事を終え循環器のクリニックへ行くと、以前と変わらぬ受付のスタッフに声をかけた。
こんにちは、予約した〇〇と言います、と告げると、あっお久しぶりです、〇〇さんお手紙届いてますよ、と循環器の病院からの連携が出来ている様子が伝わってきた。
そして覚えてもらえている、忘れられていない事も伝わってきた。
マイナンバーカードお願いします、と以前には無かったカードリーダに時の流れを感じた。

待合は10人以上は座れる椅子に対し7人くらいの患者が居る。
予約とはいえ、少し待ちそうな感じだ。
間もなくして診察前の問診に呼ばれ問診室に入った。

初めて見るスタッフに、これまた時の流れを感じた。
体重、血圧、酸素濃度を測り、いくつかの質問に答えていった。
そして循環器の病院から情報が無いかもしれないPPPD、めまいについても経緯や症状、通院の状況を伝えた。
ここのクリニックでは院長の診察前に必ずスタッフからの問診を受ける。
ここで出来るだけ情報を集め、院長の診察の効率を上げるのだろう。
なので患者側の自分も出来るだけこの問診で情報を伝えるのが良いと考えている。
問診の次は心電図だ、だったはずだ。
スタッフから次の待合で待つよう指示があった。
覚えている、自分はここの流れを覚えている。

しばらく待っていると自分の名前を呼ばれ検査室に入る。
見慣れた以前のままの検査室だ。
ベッドに横になり指示された通りズボンの裾、お腹の服を胸まで上げ、測定の機器をペタペタと取り付けてもらう。
足首や手首はなんともないが、左脇につけられる時の機器の冷たさにいつも体がビクッと反応してしまう。
これはいつでも、どの病院でも同じだ。
あの機器の吸盤を事前に温めておくという機能は、いつになったら備わるのだろうか。
付いてしまえばなんて事はないのだが、毎回恐怖に近い冷たさだ。
1分も経過しないうちに測定は終わり、次がいよいよ院長による診察だ。

結構な時間が経過して自分の名前が呼ばれた。
失礼します、お久しぶりです、先生覚えておられますか、と口から出てしまった。
院長は、覚えてますよ、と力強く返してくれた。
院長の声は声優になれるのでは、と思えるほど声の響が良く、声質にも特徴がある。
この声、この声、1年半ぶりに聞く院長の声はとても心地よかった。
続いて、大変でしたね〇〇さん、調子はどうですか、とお手紙を読んでくれてもらっていると思うと安心した。
経緯の説明はごく簡単に、視野と左手の後遺症、クルマの運転再開、めまいのPPPD等について伝えた。
あー、そうですか、私もこういう事になるとは思わなかったんで責任を感じてます、と言ってもらえた。
眼はどうなんですか、左右で違いはあるんですか、と院長に尋ねられた。
視野検査では違いは少しあるんですが、普段は違いは感じないです、四分盲と言われて視野の4分の1が欠けていると、眼ではなく脳なのでこれ以上の回復は難しいみたいです、と答えた。
院長や周りに居たスタッフ2人も、何も言葉は返ってこなかった。
そして場の空気を変えるかのように院長は、両手首の脈拍の触診と胸背中を聴診器で診てくれ、モニタに映し出された先程の検査結果を観ながら、〇〇さん良いですね、問題ないですね、これ観て、と言いながらモニタに出ている心電図のグラフを指しながら伝えてくれた。
さらに手術前のグラフと比較しながら、ここね、ここが出てないでしょう、と乱れていたグラフとの差を説明してくれた。
言われてみれば確かに、でもよく解んないや、とも思いながらBefore Afterでの違いを確認出来た。
手術した病院でも、ここのクリニックでも同じ様な感じだ。
あと手術以降から気になっていた事を質問してみた。
血圧は問題ないかなと思うんですけど脈拍がいつも高く大体これくらいの数値なんですけど、と尋ねると、〇〇さんね、これくらいは問題ないです、気にしなくていいです、とあっさり言ってもらえた。
そうですか、先生にそう言ってもらえると一番安心です、とにこやかに応えると、先生もスタッフも笑顔になった。
スタッフの中には大きくうなずきながら反応してくれる人も居た。
じゃ次回は10週間後の診察でお薬も70日分出しておきます、と院長のハキハキとした大きめの声で、循環器のクリニックでの診察再開を終えた。

処方箋をもらい、クリニックを出てすぐの薬局に行き、ここも1年半ぶりを取り戻すかのように、確かめるように以前と同じ心臓の薬を出してもらった。
これを一生飲むのか。