それから間もなくして自分の名前が呼ばれた。
院長の声はとても小さく口先だけでしゃべる感じで、ざわついた待合では聞き逃してしまいそうだ。
いつも注意深く、待合の放送に集中しなければならない。
数ある診察室の他の医師の患者を呼ぶ声も様々だ。
話し方はその人の特徴をよく表している。

院長はいつも表情を変えず声のトーンに起伏がなく感情を感じにくい。
事実や伝えるべきことを淡々と話す。
それはそうか、仕事で医師がいちいち感情を込めていたら身がもたないか。
最初は苦手なタイプの方かなと思っていたが、術後からか少しずつ印象が変わってきている。
最近では自分の気持ちを話したいという思いが湧いてきている。
今日の診察ではどうか。

コンコンコンとノックして診察室に入った。
半年前より少しは良くなっているという自覚がある。
良くなっているというのはPPPDのめまいの症状だ。
心臓の具合も全く気になるところはなく、視野欠損があるとはいえ、PPPDのめまいさえ無ければ元気だ。
失礼します、先生お久しぶりです、宜しくお願いします、の挨拶に院長に分かってもらえたのか、おっ前より良さそうですね、と言ってもらえた。
早速、待合の前の心電図検査の結果を確認すると、問題ないですね、血圧も良いし、と崩さない表情でも声に厳しさない。
でも目は笑ってない。
前回の半年前にも話した同じようなことをお互い話している。
それだけ問題は出てきてはないということだ。
PPPDのめまいについても引き続き通院中であることを伝えると、すみません、といつも謝る院長。
自分はもう院長に対して責める気持ちは、ほぼなくなっていた。
そして院長からは、今後は引き続きここでもいいし、かかりつけの循環器のクリニックへの通院でもどちらでもいいですよ、と提案された。
今後の経過観察は定期的にクリニックに、そして1年後はここ循環器の病院へ診察に、との事だ。
クリニックに通院し始めてすぐに処方され、今もずっと処方されている薬は今後も続ける方が良いとも言われた。
それはずっとですか、と質問すると、そうですね飲んだ方が良いと報告があるんで、と返答があった。
思わず、そうかぁ、一生通院と、一生この薬を飲むんですかぁ、とつぶやいてしまった。
院長はその方が良いみたいですね、と繰り返した。
淡々とした話し方の中でも、どこか親近感を感じる優しい口調だった。
クリニックの通院を受け入れると、じゃお手紙を書いて送っておきますね、お薬も次のクリニックで出してもらって、あの先生は信頼出来るんで安心して下さい、とこれまでの二人の経歴を教えてもらった。
医師同士の信頼関係を耳にして、2人の関係性に想像力を膨らませた。
院長とクリニックの先生は旧知の中のようで、自分にとってもより安心材料になった。
循環器の病院とクリニックの連携が出来ている事は患者にとっては非常に大事な事だ。
それでは次は1年後ですね、と院長は次回の診察の予定を入れてくれた。
いよいよ、ここでの診察が1年後になったのか、それくらい良い方向に行っているのか、と大変嬉しい気持ちになった。
と同時に、先生、自分の事忘れないでくださいね、と発し、院長に懇願した。
1年も経てば日々増える患者で院長は自分のことを忘れてしまうのではないか、と想像してしまったのだ。
忘れませんよぅ、と院長。
変わらぬ同じ表情と声で優しく返してくれた。

こうして半年ぶりの診察を終え、次回は1年後だ。
1年も先かぁ、でも1年ってあっという間だろうな、と思いながら、予約室で次回の予約票をもらい、病院をあとにした。