ここから各テーブルでの自由なトーク時間だ。
隣の女性以外、みんな初対面の元患者さんたちだ。
一体どんな人たちなのか全く分からない。
後遺症の有無、程度も分からない。
このメンツで、さぁ話をしましょう、となっても自分には無理だ。
外来担当の作業療法士さんが居なければ自分は恐らく貝のように黙ってしまうだろう。
そこで元患者さん達が話しやすいよう上手に外来担当の作業療法士さんが質問形式で話を振っていった。
正直、ほっとした。
自分は初対面の人が苦手だ。
ここのテーブルの元患者さんも皆警戒しているのか、自ら積極的に話すような感じではない。
どちらかといえば、少し不機嫌そうな表情にも見える。
いきなりフレンドリーになれるような雰囲気ではない。
それでも外来担当の作業療法士さんの質問には応えて話している。
それに対して他の元患者さんの反応は、ほとんど無い。
外来担当の作業療法士さんは何人かに話を降り、次は自分に話を振られた。
何を質問されたかは正確には覚えてはいないが恐らく、今挑戦しようとしていることがあれば何か、と。
自分は先日のバンド再開のことを思い出し、それを話した。
それを外来担当の作業療法士さんはうまく話を広げ、他の元患者さんにも巻き込みながら繋げていった。
さすがだ。
そして自分には、リハビリにも絶対に良いはずです、ぜひ続けていって下さい、とアドバイスしてくれた。
こうして外来担当の作業療法士さんは一人一人に声を掛け、皆が話せる機会をつくった。
そんな中男性の元患者で、ほとんど何も話さない人が居た。
後遺症でうまく話せなくなっているのか、特にそのことについては何も触れずに、うなずくだけの元患者さんだった。
外来担当の作業療法士さんは何もスタンスを変えることなく、特に気を遣うような様子もなく、その対応は他の元患者と同じだった。
他の元患者さんは話す内容、声、雰囲気が伝わり、なんとなく取っ掛かりのようなものが得られたが、声を発しなかった元患者さんについては何も分からないまま通り過ぎていった。
そしてこのトーク中はケーキをいただきながらの時間だった。
患者会とはいえ、ここは病院内なので全員がマスクをしている。
ここで何かを食べるということは、ここに居る全員がマスクを外すということだ。
自分と外来担当の作業療法士さんとはテーブルの角の隣同士で、真正面ではないものの、すぐ斜めに位置している。
今となっては長く関わってもらいながら、1度も素顔を見たことがない。
ケーキが配られて、つい、〇〇さんついにマスクを取らないといけないですね、と振ってしまった。
すると外来担当の作業療法士さんは、絶対に取りません、と笑顔できっぱり即答。
今回のように患者会の初対面の人たちには、何の謎も秘めてはいない。
実際マスクを取っても全く何も違和感を覚えない。
顔の上下が至ってすんなり入ってくる。
ところが、長くマスク顔しか知らない人の素顔というのは、月日を重ねるほど実にミステリアスに思えてしまう。
自分勝手に想像してしまうのも、謎めいた素顔を更に拍車をかけてしまうのだろう。
最大のチャンスだったが、今回は断られ素顔を見ることは叶わなかった。
コロナ以降、病院スタッフのマスク着用率はほぼ100%に思えるが、全国の病院での、あるある、になっていることだろう。
自分の職場でもそうだが、なかなかマスクを外せなくなった人も居る。
長くなればなるほど、取りづらいものだ。
職種もあるが、特に女性はお化粧の面からも外す機会を失うのだろう。
そうこう考えていると逆に考えれば自分に対しても、そう思われているのかもしれない。
いや、多くの患者の対応でいちいちそんなことは考えてもいないだろう。
ここは少し恥しかったが、躊躇せずにマスクを外した。
やはり何も言われない。
そして話しながらケーキをいただいた。