2週間毎に予定されているリハビリの日だ。
仕事復帰させてもらい、もう2ヶ月が過ぎた。
今日も半日有給を使い、妻と一緒に来させてもらった。
少し早く着き、リハビリ室入り口近くにあるソファに座って時間を潰していた。
ここに座っているとスタッフがよく通る。
それをなんとなく見ていると自分に関わってもらったスタッフに会えないかなぁと、いつも思ってしまう。
今年の4月で配置替えがあったと聞いていたので、ここを通るスタッフは知らない顔が多い。
もう本当に会えないかもと思っていたら自分の横で立ち止まった人が居た。
ほんの1、2秒くらいの時間、自分を見られているような視線を感じ、その人を見上げた。
あぁ〇〇さん、お久しぶりです、お元気ですか、とすぐに名前が出て挨拶した。
入院中、自分の担当に着いてもらった作業療法士さんだった。
こうして偶然会えたのも2回目だ。
全く変わらない様子に見落としたり、見間違えたりする事はない。
自分の左手を麻痺から救ってくれた人だ。
2ヶ月足らずの入院リハビリだったが、自分にとってとても濃い指導で、精神的にも救ってもらった人だ。
その一生懸命さに心を打たれ、リハビリも頑張れたと思っている。
循環器の病院のスタッフに言われた、超ポジティブで引っ張ってくれますから、とそのまんまの人だった。
作業療法士さんは自分の事など忘れているかもしれないので、自分から名前を言い、覚えておられますか、と尋ねた。
すると作業療法士さんはあの時の笑顔のまま、もちろん覚えてますよ、と返してくれた。
その後どうですか、と聞かれ、8月に復職の支援を受けて今仕事させてもらっています、視野はあれからあまり変わった感じはないですけど、ちょっとはマシになったかなぁっていう感じです、と自分の近況を話した。
そして今度この方に会えたら伝えようと思っていた事を思い出せた。
自分の左手の麻痺をとても熱心に真剣な表情で施術してくれた入院リハビリ終盤。
何かの飾り物か、プラ製の突起がある丸い物で、自分の左手の上で少し強めに転がして刺激を加えてくれた。
その転がしてくれた物の形状は、まるでファーストガンダムのザクの右肩のそれによく似ていた。
結構な突起で少しだけ痛かったが、作業療法士さんの手と自分の手を合わせるようにして、その突起を転がしてくれたのだ。
自分は麻痺で感覚は少し鈍っていたが、作業療法士さんは痛くなかったのだろうか。
何日か続けてその施術をしてもらったおかげで、左手の動きは良くなった。
独立して動かなかった薬指が目の前で動くようになったあのシーン、あの感動はは今でも忘れられない。
退院後、左手の動きがイマイチ前進しないと感じ、あの時の強めの刺激がある方がいいのかなと思い、自身でも施術出来るように、ローラー状のグッズを手に入れて時々セルフリハビリをしていた。
それをする度に今目の前に居る作業療法士さんの事を思い出していた。
今度会えたら、これを報告しよう、と。
あのトゲトゲでグリグリしてもらったの覚えてますか、あれから自分でも出来るように同じようなものを見つけてやってるんですよ、と急ぐように報告した。
作業療法士さんは仕事中に違いない。
自分の事で足止めしていることに少しだけ申し訳なさと嬉しさが渦巻いた。
作業療法士さんはあの時のまま、自分をあの時のままの患者のように接して、笑顔で返してくれた。
いいですね、刺激は与えた方がいいんで、無理のない範囲で、と。
お忙しいでしょうから、また、とあの時のお礼を改めて伝え、短い再再会を切り上げ、自分はリハビリに向かった。