先日、入院していた母がやっと退院した。
当初、3ヶ月の入院予定が、少し伸びての退院だった。
体調面では問題なく、認知機能の衰えが進行して家での生活で家族に支障が出てきた為の入院だった。
思い込みが激しく、同居する家族を強く疑い、暴力を振るうようになった母だったが、3ヶ月以上の入院生活で何か変化はあったのだろうか。

6月の下旬に入院して、毎週末必ずお見舞いというか、顔を見に行っていた。
食べ物だけでも寂しい思いをしないよう、母の好きそうな甘いお菓子やフルーツを差し入れていた。
生物は禁止されていたが、その場で食べて消費する分には問題なく、保存のきくお菓子を置いてもらうようにしていた。

入院当初は、やはり精神的に不安定で面会に行くと悔しそうに泣き出したり、なぜ入院しないといけないのか、と家族に問いただしていた。
携帯電話は基本的には病院に預けなくてはならず、電話をかけたい時は出してもらえた。
その携帯電話で方々にかけまくり、思いも寄らないところにかけて迷惑をかけた事もあった。
ここの病院は先生が診察もしない、薬もない、風呂も入らせてもらえないと母は訴えていたが、自分たち家族は、これがどこまで本当なのか妄想、思い込み、もの忘れなのかが分からないので、聞ける範囲でスタッフに尋ねた。
でもスタッフに尋ねてもその内容がどこまで本当なのか疑ってきてしまう。
真実はどうなのか、家族は不安だった。

入院して1ヶ月くらいは不安定な状態だったが、段々と週を追う毎に穏やかになっていく印象があった。
怒ることもなく、取り乱す事もない、にこやかになる母になっていく様子が感じれた。
病棟からは外に出られない制限があったが、途中から外の散歩が許され、これまで満足に動き回れなかった事で弱っていく足腰が、入院後半は明らに筋力の低下が見てとれた。
お盆には一時帰宅の許可も出て、親類の集まる我が家には事情を知るものの、あまりその話題には触れず、元気そうだと、ふんわりした励ましの言葉をもらう母の笑顔があった。
こんなに穏やかに居てくれたら家族だって、もっと優しく出来るのに。
山沿いの起伏のある土地に病院はあり、散歩コースには坂道や階段がある。
しんどいわ、と言いながら、立ち止まり、自分はそっと母の腕を組んだ。
こんな事がなければ腕を組むなんて事はなかっただろう。
母自身も体力を大きく落としたと実感しており、無理はせず、ゆっくりと1時間ほどの散歩が数回出来た。
昼間はとても暑く、散歩が出来ない日もあったが、入院後半の夕方近くになれば山に隠れた太陽は日差しも届かず、爽やかな風が通り抜けた。
世間話をすると以前のままの母の決まり文句が顔を出す。
変わらないな、と思いながら、それでも穏やかになった母の表情に少しほっとした。

病院から退院の予定を聞き、退院当日先生から話を聞いて退院となった。
今後は家から近い病院に代わり通院する事になる。