病院にとっても初めての患者会が始まった。
外来担当の作業療法士さんからは、人の話を否定しない、遮らないを守って進めたいと思います、と付け加えられた。

最初の患者さんは自分の向かいの方だ。
次が唯一の女性、男性、男性、男性、自分だ。
年齢は自分の隣の患者さん以外は50代か。
皆さん若く見える。
そして、皆さん元気そうに見える。
患者会とは言え、全員が退院され、普通の生活を取り戻していそうに見える。
自分も恐らく、そう見られているだろう。

一人ずつ思い思いの言葉で脳卒中になった経緯と今の様子を語った。
失語症になり、何も話せなくなったのが、ほぼ普通に話せるようになった方。
仕事中に自覚症状を感じて職場の人の素早い対応で、ほぼ後遺症がない方。
手足、言語に麻痺が残りながらも、経営している飲食店と従業員を抱えている方。
とても早い処置により、今では後遺症が全くない方。
自分と同じく心臓疾患により脳梗塞になり、手足に軽い麻痺が残っている方。
そして自分だ。
皆さん5分前後で上手にまとめて話された。
本当に色々な経緯があるのだなと改めて感じることで、自分だけが、こんな人生ではないのだなと思えた。

続いて医師による話があり、医療についての現状を説明された。
そして看護士、心理士と、それぞれの立場の話をされた。

次は、患者さんの方からご質問やご意見があれば、と外来担当の作業療法士さん。
自分はすかさず手を挙げ質問した。
質問内容は、自分が抱える四分盲の事だ。
発症後7ヶ月になるが、今後の改善の見込みを伺った。
解っていた。
これまで主治医から何度も説明を受け、よく解っていたが、違う医師の話も聞いてみたかった。
医師の意見は、やはり同じだった。
自分だけ特別改善が進むとかは無いし。
丁寧に説明してもらった事が、逆に改善の見込みの薄さと難しさを再認識させられた。
めまいの事も聞いてみたかったが、これまで主治医との診察で前進が感じられず、諦めのような気持ちが勝り、質問出来なかった。
自分の言うめまいが、この場の短い時間で、質問や説明で、果たして理解してもらえるだろうか。
とても出来ないと思った。
そして、ちょっと場違いな質問かなとも思え、質問する事に躊躇した。

少し間が空いた時間があり、自分の向かいの患者さんが話し始めた。
こういう病気になり、時々死にたいと思うことがあるんです、と。
非常にショッキングだった。
自分ではどん底に落ちたと思っていたが、死にたいとは思えなかった。
それはなぜかは分からない。
逆に生きたいと思えたし、頑張ろうとも思えた。
この患者さんにどんな心理的変化があったのだろうか。
全員が真剣な表情で聞き入った。
そして話の途中、隣の女性の患者さんが、それ私も解ります、と発言され、そのまま自身の話が始まった。
あれ、話を遮ってないかな、と思ったが、そのまま女性が話された。
自分は最初の男性の話が気になり、女性の話があまり聞けずに頭に入らなかった。
女性の話は続き、隣の男性の表情を見ると、まだ話したい事があるのに苦笑いして話すのを諦めたような顔をされた。
やっぱり話を遮ったよな、と思いながら自分はその男性の事が気になった。
結局、女性の話の方が長くなり、終わりの時間が来てしまった。
男性の心理というか、気持ちをまだ聞いてみたかったが、これで終了だ。
外来担当の作業療法士さんによると、この後すぐにここで会議が行われるとの事。
その為、患者会はすぐさま解散となった。

ドアが開くと既に待機していたスタッフがゾロゾロ入ってきた。
少し時間がギリギリすぎたようだ。
こういう場合は次の準備もあるだろうから、数分前には部屋を空ける必要があっただろう。
しかし、患者会の終盤に、死というワードが出ては途中で終える事も出来なかったのだろう。
患者に向き合う。
医療機関で、そこはスキップ出来なかったのだろう。
自分ももっと聞きたい、そう思った。
男性の事が気になった。
人の出入りが激しい会議室の前でその男性を見つけると、そこには心理士さんが既に居て二人で話していた。
神妙な表情で話す二人、ざわついた会議室前に会話はかき消されていた。

自分は消えるようにエレベータに向かおうとすると自分に声をかけてくれる看護士さんが。
あぁ覚えてますか、あっ覚えてますよ、お元気ですか、以前循環器におられた話をした、そうですー、よく覚えてますねー、覚えてますよー、と一気にテンションが上がった。
入院時、お世話になった看護士さんだ。
以前、市外の循環器の病院を経て今の病院に居て、病院食の事や心臓の話をした看護士さんだ。
高く透明な声が印象的な方で、笑顔が絶えない、とても明るい看護士さんだ。
でも、お世話になったとは言え、正直そんなにお世話になっていない自分が2ヶ月に満たない入院で、よく覚えてもらっていたなと思いながら、30秒にも満たない会話とも言えない再会も人波に押されるように二人正反対に流された。
退院後、これまで何度も何度もリハビリに来させてもらったが、大勢居る看護士さんに会う事がなかなか無かった。
入院病棟とリハビリ病棟はフロアが違い、交わる事がほぼ無い為だ。

モヤモヤして終わってしまった患者会だったが、最後に懐かしい再会に嬉しい気持ちになり、今日の患者会を終えた。