産業保健総合支援センターの方はマスクをしていない。
初めて見る素顔だ。
会社の人と自分は病院という事もあり、マスクをしている。
いよいよ3者面談が始まる。
3者面談で使うのは6畳位の広さの部屋だ。
テーブルはあるが、資料等を置くだけでテーブルを間に挟むカタチではない。
3人が向き合うように椅子に座って、膝を付き合わすような状態だ。
会社の人と自分は産業保健総合支援センターの方を向いている。

改めて簡単な挨拶から入り、面談は始まった。
産業保健総合支援センターの方から前回の話の流れから今日の趣旨を話し、会社の人の意見を聞いた。
会社の人は、会社の状態、事情、景気、経営の難しさ等、色々な苦労を話し、産業保健総合支援センターの方がその話を聞き、糸口を探るような感じだ。
ここではあまり口出しせず、っじっくり相手の話を聞いている様子に見える。

会社の人が言っている内容は、要するに会社の状態が良くないので自分の復職は難しいという話をしている。
表情は前回同様に渋く、思い詰めたような雰囲気だ。
産業保健総合支援センターの方は、その話に対して説得して復職に持って行くような話はせず、上手に聞いて合わせている感じだ。
色んな話の中で一つひとつ反応せず、多くを聞き役に徹しているように感じる。
会社の人の不安は自分の心臓や頭の状態にも触れ、仕事中に何かあっても救急車を呼ぶ事しかできない、と言われた。
心臓の状態は今のところ問題はないが、これまでのようなパワハラを受けたくないので、心臓に負担をかけないように自分自身を守る為に、これらの理由でも役職をとって欲しいと伝えていた。
もちろんパワハラとは言ってない。

産業保健総合支援センターの方は中立な立場の表現で、自分にも一般常識的な事を諭すように話しした。
自分はほとんど発言せず、頷きながら聞くのみだ。
何か発言すると会社の人から否定か数倍返しに遭うからだ。
それに復職をお願いしている立場なので、ここはぐっと我慢して平常を心がけた。

会社の人はこうも発言した。
会社は絶対受け入れないとけないんですか、と。
それに対して産業保健総合支援センターの方は、絶対という事はないですよ、と、それだけ応えた。
会社の人は、じゃ受け入れない、とは言わず、悩んでいる様子だ。
復職を認めたくないが、スパッと切るという決断はしていないようだ。
自分は黙ってその場の空気を受け入れている。

産業保健総合支援センターの方は、役職はとってもらって、一従業員としてやっていくでどうですか、と会社の人に背中を押すように確認すると、それはいいです、と役職をとる事は受け入れてくれた。
ということは復職も受け入れてもらえるのか。
役職をとる決断は出来ていたようだ。

すると会社の人は自分に対して説教のような発言を繰り出してきた。
それはそれは多岐に渡り溜め込んでいた鬱憤を晴らすかのように続いた。
自分の給与を引き合いに出したり、とにかく説教と叱責だ。
それは永遠続いた。
長い、よくこんなにも出てくるものだ、と思うほど。
よほど自分は問題のある従業員なんだろう。
30分以上は言われ続けたか。
目の前の産業保健総合支援センターの方を見ると、会社の人の話を聞いていない様子だ。
それは、テキトーで小刻みな頷きと、相手を見ず自身の指先を見たり、触ったり、もてあそんでいる。
表情も少しムッとしてイラついているようにも見える。
マスクをしていないその表情は隠されていなかった。
産業保健総合支援センターの方と一瞬自分と目が合った。
自分は目を大きく見開いて、止まらないですね、の意味を込めて合図を送った。
産業保健総合支援センターの方は実際どう感じて聞いていたのだろう。
自分はこれまでの会社の人の振る舞いを見てきたので驚きはないが、これを面識の少ない人が見たら、それは引くだろう。

そして会社の人は、パートとしてだったら受け入れてもいい、と話すと、産業保健総合支援センターの方は、それは社内規定に休職したらそのように定められているんですか、と質問した。
会社の人は残念そうに肩を落とし、いいえ、とだけ返事をすると、産業保健総合支援センターの方は、じゃそれは労基との話になりますね、とスパッと切り捨てた。
これに観念したかのように会社の人は、ふっとため息をついて黙り、何も話さなくなった。
産業保健総合支援センターの方は、お盆休み開けくらいで復職という事でいいですか、と念を押すように、半ば強引とも思えるような土俵際の押し出しだった。
その方向で話は進み、切りがいいように会社の月始めから出勤で決定した。

最後は産業保健総合支援センターの方の経験から、人を見ての判断だったのだろう。
復職は難しいという雰囲気満々から、それでも自分を切る決断しきれてないスキを突いた見事な逆転だった。

物言いがつかないようにかは分からないが、速やかに部屋を出る事になった。
こうして2間半におよぶ、3者面談は終了した。