予定の時間が近づいてきた。
事前打ち合わせは以上なのか。
その時ドアをノックする音が。
失礼します、と。
リハビリ室の受付の人に案内されてきたのは会社の人だ。
こんにちは、今日はお忙しいところ、ありがとうございます、とまず挨拶した。
外来担当の作業療法士さんと産業保健総合支援センターの方も挨拶と簡単に自己紹介をした。
産業保健総合支援センターの方と会社の人は会うのは2回目のはずだ。
席は外来担当の作業療法士さんと産業保健総合支援センターの方は2つ席を飛ばして並んで座り、その向かいに3m位離れて会社の人、それを自分は横から3m以上離れて見るような位置だ。
なので自分は3人を斜め横から見る恰好で、プロジェクタ画面は自分の正面だ。
外来担当の作業療法士さんと産業保健総合支援センターの方、会社の人は画面を観るには顔を横に向ける必要がある。
その場合、自分は顔を動かさずに3人と画面全てが目に入る位置にあった。

ピリッとした空気の中、外来担当の作業療法士さんの進行で面談は始まった。
早速始めたいと思います、まずはこれまでの〇〇さんの経過や状態を簡単にお話ししたいと思います、と優しく淡々と話が始まった。
会社の人は黙って手元を見ていて、顔は動かさない。
自分の目の動きの説明でプロジェクタに映し出された映像が始まったが、会社の人は一切顔を動かさない。
つまり観ていないのだ。
それ以降10分位の説明画面も観ようとはしなかった。
その中には自分の四分盲と分かる検査結果の図も入っていたがスルーされた。
それでも外来担当の作業療法士さんは止める事なく進行した。
自分も気にせず外来担当の作業療法士さんに任せた。
想定内といえば想定内だ。
もう慣れている。

一通り簡単に自分の病状や後遺症の状態の話を終えると、何かこの中で質問等はありますか、と外来担当の作業療法士さん。
すると会社の人が話し始めた。
それは色々な心配事や懸念している事だ。
沢山あったが、その中には自分がどれくらい仕事が出来るのか、病気前とどうなのかは質問されなかった。
助かった。
これを聞かれると自分は自信が無い。
実際やってみないと分からないが、パフォーマンスとしては自分では病気前の半分以下と思っている。
そんな事を言えば、とても復職させてはもらえないだろう。
会社の人が気にしていたのは数多くあった。
心臓の状態、脳梗塞、てんかんの有無、通勤、業務中に倒れた場合の対応、責任の所在等だ。
どうして復職したいのか、とも聞かれた。
自分は質問の一つひとつに答える事はせず、会社の人が自分の回答を待つ時だけ答えた。
それほど会社の人の話や質問はインターバルの無い連続した話だった。
聞かれて答えると否定されたり。
これは勤め先でも、よくある事だった。
外来担当の作業療法士さんと産業保健総合支援センターの方は乱れず、ずっと様子を冷静に見ている感じだ。
症状に関する質問の回答も自分は答えず、外来担当の作業療法士さんが上手にやんわりと答えてくれた。
自分からしたら少しオブラートに包み過ぎてよく分からないような回答で、でも嘘は言っていない。
でもこれでいいのだ。
会社の人は自分の事など興味がないはずだから。
自分がどうなっていようと、会社の人が思っている事、考えている事は揺るぎはないのだ。
あと産業保健総合支援センターの方は諭すように、心配なのは分かりますが、起きてもいない事を今から考えても何も出来ないですから、と言ってくれクギを刺した感じだった。
1時間近く経過したが会社の人からの復職の回答は聞かれなかった。
会社の人は一旦持ち帰ると言い、今回の面談は終了した。

全員が席を立ち、部屋から出ようとした時だった。
産業保健総合支援センターの方が自分のところに来て、小声でこう話した。
前回お会いした時に言われていた役職をとってほしいと、気持ちに変わりなければ言ってみたらどうですか、と。
産業保健総合支援センターの方はあの話を覚えていてくれていた。
どういう事だろうか。
前回はそのままでいいと言っていたが。
今日のこの面談の中で、何か心境の変化でもあったのか。
そうですか、じゃ、言ってみます、と自分は会社の人を追いかけて意思を伝えた。
あのぅすみません、今回こういう病気になってしまって役職をとって欲しいのですが、と話すと、えぇーそれはまた話が違う、と驚いた様子。
どうして、と尋ねられ、心臓にも負担をかけたくないし、脳梗塞で麻痺も残っているので、とそのまま答えた。
いやいや、それとこれとは話が違う、と再度言われた。
これも持ち帰って役員と話をします、とだけ言われてこの場を解散した。
自分は外来担当の作業療法士さんと産業保健総合支援センターの方に今日のお礼を伝えると、外来担当の作業療法士さんは、〇〇さん会社の人と全然目を合わせませんでしたねー、と自分の事を言われた。
実によく見ておられる。
角度的に目を合わせているかどうか分かりにくい位置に座っていた外来担当の作業療法士さん。
自分は普段、相手の目をよく見ているのかどうかは分からないが、外来担当の作業療法士さんから見ると、そう見えたのだろう。

自分はあまりしゃべらなかったが、疲れた。
今後はどうなるのだろう。
また会社の人の動きがあるまで待つ事になるだろう。