いよいよ自分の出番が来た。
待合を出て教官の元へ行った。
なんとなく見覚えのある顔だ。
初めて見る顔の気がしない。
挨拶を済ませ、手荷物は後部座席に置くよう言われた。
2人ともクルマに乗り込み、教官から少しだけ話をされた。
脳梗塞をされたと言う事で大変でしたね。
そうなんですよ、心臓が悪く、心臓手術で脳梗塞になりまして、視野と左手に後遺症があります、と簡単に説明した。
そんな事があるんですか、じゃ今日はお願いします、行きましょうか、と早速発車へ。

すると教官はすぐ自分の足元を見て、ブレーキは左なんですか、と聞かれた。
さすが教官だ。
よく見ておられる。
若い時、レーシングカートをやっていて、それ以来ずっとこれになりました、と病院で説明した同じ事を話した。
自分は、どうかな、直すよう注意されるかな、と思ったが、そのまま発車した。
と同時に左足でのブレーキをいつもより繊細にしようと心がけた。
本当に大丈夫か、と思われないように。
じゃ、外周を3周まわりましょう、と指示された。
とても丁寧な口調の教官で、荒っぽさは微塵もない。
メーターはよく見えないが、ゆっくり走り、制限速度を守り外周を回った。
行ける、今は行けている。
視野は見辛いが、運転出来ない事はないし、フラつきもない、はずだ。
安心してクルマを走らせると教官から、じゃそこを右に曲がって、信号を直進して突き当たりを左に、そこのクランクへ行きましょう。
来た、クランクだ。
視野が不安な事で苦手っぽいクランクがいきなり来た。
恐る恐る入り、半信半疑のままゆっくり曲がって曲がって曲がって曲がった。
いつブレーキを踏まれるかとビクビクしながらの難関だった。
が、接触や乗り上げもなく通過した。
じゃ外へでましょう、とこれまたいきなり路上へ。
マジか、早い、早いよ。
自動車学校の門を出て街中へ。

川を越え、これまたいきなりの難所がある。
普段でも非常に危ないと感じる県道への侵入だ。
県道は緩くカーブしており、信号も無く見通しが悪い。
県道を走るクルマは結構飛ばしてくる。
おまけにこちらは視野に難ありだ。
カーブミラーを見てもよく分からない。
動くものが無いなら、やはり半信半疑で鼻先を出して県道に侵入した。
ここでもブレーキを踏まれるかと思ったが、スムーズに出れた。
難所を乗り越え県道を進み、教官の指示に従いクルマを走らせた。

次を左で、とサイドミラーと左前方を見る。
左視野の欠けが大きいので、左に視線を動かしても、一瞬見えないエリアがある。
見えないというより、モノが存在しないのだ。
モノがある事に気づくのは、更に視線を動かしてからだ。
その視線の先には横断歩道を渡る小学生の下校の列だった。
ここは信号があるが、歩道に人が居れば人が優先で、クルマは待たなければならない。
運転の感覚が戻りきらないうちに路上に出た感がある。
ブレーキを踏みスムーズに止まり、歩行者を行かせた。
結構焦った。
やはり左側が見えにくいのがこれで分かった。
慎重に運転し、無理のないよう、ゆっくりとクルマを走らせた。
幸い自分の前のクルマが同じペースで非常に助かった。

自宅近くの自動車学校で本当に良かった。
当然この辺りは走り慣れた道で、どこに注意が必要か把握できていたからだ。
さぁこのまま行けるか。