退院し家へ

家にやっと帰れた。
まだ肌寒い時期だが、清々しい。
１月の一番寒い時に家を出て入院。
今はもう３月の下旬になろうとしている。
季節を飛び越えて家に帰ってきた。
妻が迎えにきてくれたクルマから降り、家へと。
家の外の様子は変わった感じはない。
家を空けたあの日のままだ。
荷物を運び、家に入った時には、帰ったーっ、と喜びを爆発させた。
入院生活が特に縛られたものではなかったが、やはり家には自分を開放してくれるものがある。
すぐ部屋着に着替えてソファでしばらくゆっくりした。

リビングで休んだ後ふと布団が用意してある事を妻に尋ねた。
寝室は２階にあり、１階のリビングに敷かれた布団の事を不思議に感じての事だった。
妻の返答は、今自分は血液をサラサラにするワーファリンを飲んでおり、もし階段から落ちたりでもしたらと心配しての事だった。
なので退院できても、しばらくの間は2階に上がることは禁止とされた。
大袈裟よー、と思ったが、ここは妻のいう事を聞いておこう。
なにせ自分は手術以来、めまいが一向に良くならない。
動くとクラクラしてしまう。
だが体がフラつくかと言えばそんな事はない。
メニエルとか内耳関連のめまいではないようだ。
とにかく、この２ヶ月間、変わらないめまいにうんざりしている。
自分は妻に、もしこのめまいが治らずに一生続くなら正直耐えられないかもしれない、と伝えていた。
それほど辛いめまいなんだと伝えるには、こう表現するしかなかった。
それを知っての２階禁止令だったのだ。

一休みしたあと、持ち帰った荷物を整理した。
入院中に持って帰ってもらっていた荷物も出してもらい、入院中のその時の場面が蘇ってきた。
手術前にスケッチブックに遺書のようなものを書き留めており、それも出てきた。
心臓を止めて心臓の中を修復する手術なので、もしもの事があったらと縁起でもないが、思いを書かずにはいられなかった。
でも、こうしてなんとか見た目には普通に見える状態で帰って来れたのだ。
この遺書のようなものを妻は気づいたのかどうか。
どうも読んでないようだ。
恐らく開いてなく、気づかれていない。
自分は、そっとそのスケッチブックを仕舞い、なかった事にした。
なんとか生きている、そう言い聞かせた。
増えていた自主リハビリグッズも整理し、まとめた。

こうしてめまいがしたり、視野が欠けていたり、左手に麻痺が出ていても、家の中の生活に大きな問題はなさそうだ。
よしとしよう。
今日は退院できたのだ。
家に帰る事が出来たのだ。
そう考え気持ちを上げた。
嬉し過ぎる。