ある日、担当の理学療法士さんが自分の病室に来て、ある許可証を渡してくれた。
それは空き時間に自主的にリハビリ室に行き、道具や機器を使いリハビリを許可、というものだ。
これはあまり出るものではなく、自分のような動きに問題がない患者に出されるものらしい。
リハビリの合間も休んでばかりではなく、しっかり体を動かすようにとの指導でもある。
入院で体力が落ちているだとうからバイクマシンを勧められた。
次のリハビリの時に使い方を教えますね、説明の紙も出します、と理学療法士さん。
続いてリハビリ室に行く場合はナースステーションにある外室記録に記入するよう指導された。
何かの用事や、どこに行ったか分からない事がないようにとの事だ。
こうして自分はまた一つ前進出来たと実感した。
普通の生活に近づく、これがどれほど尊いものか。
その許可証は首から下げるもので、普段使わない時は病室の棚に引っ掛けておいた。
まるで勲章のように。
その後、これを目にしたスタッフさんが、おぉ出たんですね、と笑顔で反応してくれた。

次の日、早速理学療法士さんからバイクマシンの使い方を教わった。
これを機に自分は1日1回はリハビリ室に自主リハビリに行った。
これまで不足していたことや、やってみて良かったリハビリをするようになった。
まずはバイクマシンで落ちた脚力と体力を戻したいと思い取り組んでみた。
しかし、周囲に変化がなく、継続するのは意外に困難ではないかと思った。
唯一の目標は表示される情報だけだ。
距離、時間、スピード、カロリー等だが、これだけでは楽しめない。
ある地点で飴のイラストが表示された。
これはこれまで消費したカロリーの食品という意味らしい。
恐ろしい。
あれだけ動いてこれだけか。
足だけ動かすマシンと、手足が連動して動かすマシンがある。
うーん、あまりピンと来ない。
自分はこれらのマシンを2回ずつ使用して以降、それっきりになった。
なんだろう、意外に退屈だった。

次に取り組んだのはゴムボールの中に砂が入ったトレーニングボールだ。
何回か作業療法士さんに指導され使ったものだ。
納められたところに行きボールを手にする。
500gと1kgがあり、自分は1kgを選んだ。
まず指先だけでボールを上向きに持ち上げ、指先だけでボールを回転させる。
逆回り、縦、横回りと。
これがしんどい。
右手ではなんともないが、麻痺のある左手はすぐに音を上げる。
継続して出来ない。
これほど左手は使えないのか。
自分の左手を改めて思い知る。
次にボールをしっかり上向きに持ち、まっすぐ前に腕を伸ばす。
ボールを自身の左肩に付くように肘を曲げ伸ばしする。
この動きを繰り返し、徐々にボールが右肩に付くように肘を曲げ伸ばしする。
右に近づくにつれ腕が音を上げる。
同じく右手ではどうってことはない動きだ。
自分の左腕、肩から指にかけて麻痺の影響がこんなにも出ているのか。
リハビリ以外ではあまり不自由を感じる事はなかったが、普通の生活に戻れば、これでは苦労するだろう。
左腕がどこまで戻るのか。
戻したい、元に近づけたい。