妻には週2回は病院に来て自分の着替えや洗濯物、おやつを持って来てもらっている。
自分は妻が来てくれるタイミングをみながらトレーナー等の服を洗濯してもらえるよう調整しながら着ている。
病院には患者が使用できる洗濯機が設置されてあるが、自分は一度も利用したことはない。
妻が来てくれるおかげで自分は洗濯の手間からは開放されている。
大変有り難い。
仕事を終え渋滞の中来てくれることを思うとこれ以上は無理は言えないと思っている。

これまではコロナやインフル等の感染症対策の為、面会は荷物の受け渡しのみ許可されていた。
でもなんと、昨日スタッフの方から面会オッケーの報告があった。
しばらく院内での感染がなかったので、制限時間30分ではあるが許可が出た。
病室ではなくホールでのみの面会だ。

そんな中、いつものように妻が夕方来てくれる予定になっている。
大体16時半から17時には来てくれる。
天気の良い日なら窓からオレンジの太陽光が差し込み始める時間だ。
日が確実に長くなってきたと思わせてくれる季節で、自分はこの移り変わりを感じるのが大好きだ。
この日もそんな夕暮れに近づく陽射しを感じながら妻と会える。
これまでナースステーションのすぐ前にある入り口で、いつも荷物の受け渡しをしていた。
ほんの1、2分のわずかな時間だ。
あれやこれや入っているよ、おやつはあれこれ入れているよ、と妻。
でも今日はホールでゆっくり話ができる。
スタッフの方に見られるのはちょっと恥ずかしい気もするが。

いつも病棟に上がる前にメッセージが入る。
着いたよ。
自分も病棟フロア入り口に向かう。
入り口の目の前にあるエレベータがあり、スタッフの方や患者さんが待っていたり、乗り降りしている。
そうこうしているとエレベータのドアが開き妻の姿が見えた。
自分は視野が欠けているが妻は判る。
数人が降り、数人が乗った。
妻が自分に向かって近寄ってきて、目の前で意地悪そうな笑みを浮かべていた。
そして向かって左隣にやんちゃそうな若者のが居た。
自分の目の前で初めてその男性の顔を見た。
それは息子だった。
思わず大きな声で名前を呼んでしまい、抱きつき一瞬で涙が出てしまった。
自分は妻と息子のサプライズにまんまとハマってしまった。
聞けば今大学の春休みで帰省していたのだった。。
全く何も知らされていない自分は何が起きているのか一瞬では理解できなかった。
自分はただでさえ、全身麻酔をしての心臓手術明けから時間の感覚が整理出来ず、タイムスリップしているかのような不思議な感覚が続いていた。
認知の後遺症も少しだけあるような気がする。
そこにきてこのドッキリのようなお見舞いには仰天した。
まさか息子が帰ってきていたとは思いもしなかった。
正月休み以来だから約二ヶ月ぶりか。
自分の手術を控えハグして別れたっけ。
そんなに会っていない事はないかな。
今日からは面会オッケーなのでホールに入って話そう。
3人でテーブルに着き顔を合わせた。
担当の男性看護士さんがきて退院に向けての話を妻としながらの面会時間だった。

息子とは大学の様子について話をした。
夏前から大学から自分に連絡が入るようになり、講義にあまり出ていないといい、このままでは単位が足りなくなると教えてくれていた。
それから息子には注意してきたが、これまであまり改善されなかった。
高校生活は学校には休まず行ってくれていたのに。
親元から離れ一人暮らしをしていると、すぐ正せる者も居ない。
入学前に少し心配はしていたが、すぐ´そんな事になるとは思わなかった。
ヒップホップ系のファッションの息子。
ちゃんと大学を卒業できるかな、、、。
口うるさく言ってもしょうがないし、ここは病院だ。
控えめに注意して面会を終えた。

あっという間の30分は過ぎ、名残惜しい時を過ごすことができた。
妻と息子にお礼を言い、見送った。
エレベータの前で手を振る二人の姿が焼きついた。
数分して妻からメッセージが。
息子は途中でクルマから下り友人と遊びに行くっていう連絡が。
実家に帰省すると毎日友人と夜出掛け、朝方帰ってきて、昼間寝るという生活の息子。
一緒に家族揃って食事することは1回か2回。
自分もそうだったなかと思いながら30数年前を振り返ってみた病院での一幕であった。