入院していると色んな患者さんがおられる。
聞くところによると、ここは脳卒中の患者さんだけでなく怪我等で四肢に障害や後遺症のある患者さんも入院されるという。
自分からはどの患者さんがの脳卒中か怪我なのかは判らない。
なかなか外見だけでは見分けることは出来ない。
入院中、こんな患者さんがおられた。
背が高くイケメンで若々しい、まだ50代と思われる男性で、片足を悪くされている。
他の患者さんと談笑されている様子を見ると、とても明るくバイタリティがあり、自信に溢れている感じだ。
何かのグループのリーダー的な力強さがある。
男性の自分から見ても憧れてしまうような方だ。
一体何があったのだろう。
この方は早々に退院されたのだろう、姿を見なくなった。
この方と一緒に談笑されていた男性。
特に何か大きな不自由があるようには見えない。
同じような年代か、50代か60代前半か。
ゆっくりと杖をついて歩行練習をされている女性。
髪が長く細身で黙々と打ち込んでいる姿が印象的だ。
一日のうちで何度も見かける。
朝6時には歩行されている様子で、いつしか挨拶を交わすようになった。
そのあゆみは当初とてもゆっくりだったが、数週間で明らかにスピードアップしていた。
この女性の努力の賜物だ。
ある日、勇気を振り絞り声をかけすにはいられなかった。
本当に凄いですね、随分速くなりましたね、と。
その方はニコッとしながら、ありがとうございます、頑張ります、と。
ある日、病室前のホールに明らかに自分より若い男性が座っていた。
その方は坊主頭に大きな傷跡が。
頭の手術をされた事は一目瞭然だった。
体の調子は見る限り元気そうな感じだ。
まだまだ若いのに、一体何があったのだろう。
突然、大声で話す患者さんがおられた。
病室のすぐ前のホールから聞こえる一際大きな声。
何度も何度も看護士さんを呼んでいるようだ。
奥さん、奥さん、奥さーん、と。
その呼ぶ声は病棟に響き渡っていた。
新たに患者さんが入って来られたのがすぐに分かった。
スタッフさんも手を焼いている様子が見えた。
大きなテーブルを倒し、大きな音を立てた事もあった。
看護士さんも、私奥さんじゃない、とやんわり否定されたり、とても優しく丁寧に応対する看護士さんもいた。
ホールにあるテレビをよく視聴されていたが、その音量はとても大きなものだった。
素人目にも高次脳機能障害があるのは明らかだったが、とても、とても他人事とは思えなかった。
ある朝6時ホールへいくと、もうテレビを無音で観ておられ、おはよう、と声を掛けられ、おはよう、と返した。
続いて何か言われたが聞き取れず、誤魔化すしかなかった。
夜、70代と思われる女性二人が仲良く歩いているところを自分とすれ違った。
二人と目が合ったのが分かった。
まだ若いなぁ、という小声が聞こえた。
自分以外に人はおらず、自分の事を言われたのか。
確かに、これまで挙げた方はみんな若い方ばかりだが、あとは高齢の患者が多い。
どうしても若い人に目が向いてしまう。
同年代といえばこんな方もおられた。
夜、ホールに行き座って小声で妻に電話していると、同じように電話している男性がおられた。
何日か同じ時間帯で同じホールで似た様子だ。
不自由があるようには見えない。
一体なにがあったのだろう。
自分と同じ病室の方は少し障害が重そうだ。
片足が不自由で歩く際、とても大きな音が出る。
それは、動く足を前に踏み出し、不自由な足をひきずりながら前に出す。
そして次の動く足を前に踏み出す時の音が病室に響く。
硬い床とスリッパのパターン、パターンという大きな音だ。
スリッパは原則禁止だが、この方は足に装具が必要で、スタッフに靴をはかせてもらっている。
なので病室にあるトイレくらいはスリッパで行かれるのだろう。
スタッフの方の手を遠慮されているのか。
この方がトイレに行く時はいつものパターン、パターンという大きな音が出る。
もちろん夜中のトイレもだ。
その度にスタッフが来て、〇〇さんトイレの時は呼んでくださいね、といつも言われていた。
何か怪我でもしたらまずいからだろう。
でも懲りずに隣の方はずっと一人でトイレに行かれていた。
ある日中、この方に、スタッフさんが、〇〇さん時間があるから歩く練習しますか、と。
その患者さんは、よっしゃ歩くぞ、と元気な声で返され歩行練習された。
パターン、パターンとホールを歩く音が自分に届いた。
この時自分は自分の後遺症に落ち込んでいる時で、この患者さんの声にとても励まされた気がした。
自分よりも高齢で重い後遺症の方がこんなにも頑張っていると胸が熱くなり、少し涙が出た。
よし、自分も頑張ろう。
不貞腐れてはダメだ。
そんな中、自分を気にかけてくれる看護士さんが、夜寝れてますか、大きな音で寝れなくないですか、と尋ねてくれた。
隣の患者さんが夜中トイレに行く時の音を気にしてくれているのだ。
自分は、大丈夫ですよ、目が覚めますけど、眠剤のおかげでまたすぐ寝れるんで、と返した。
看護士さんは安心した様子で他の業務にかかられた。